PANA通信社と戦後日本 汎アジア・メディアを創ったジャーナリストたち / 岩間 優希(人文書院)重層的な歴史を浮き掘りに  アジアとは何かを考える契機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年11月25日

重層的な歴史を浮き掘りに 
アジアとは何かを考える契機に

PANA通信社と戦後日本 汎アジア・メディアを創ったジャーナリストたち
著 者:岩間 優希
出版社:人文書院
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文字通り、激動のアジアを駆け抜けたジャーナリストたちがいた。一九四七年から四九年にかけてインド、パキスタン、ビルマ、インドネシア、ベトナムが独立し、一九四九年には中華人民共和国が誕生、その後朝鮮戦争やベトナム戦争が相次いだアジア各地の様子を今わたしたちが知ることができるのは、彼らジャーナリストたちの努力に負うところが大きい。 

本書は、時系列にそって通信社の歴史を書きとめた、いわゆる社史の類ではない。「戦後の混沌から経済発展の時代に彼らが持った夢、野望、情熱、利害の交錯する場所としてPANAを捉える」試みで、通信社をめぐる人びとの足跡を辿って行くうちに、社の全貌が姿を現し、さらにその向こうに戦後アジアの風景が見えてくるという構成になっている。

そこに登場するジャーナリストたちの出自や経歴がインタビューを通して丁寧に描かれているため、一人ひとりの生き様はもちろんのこと、彼らが生きた時代背景も見えてくる。良質なロードムービーを見ているような臨場感は、著者のこの語り口によるところが大きい。章ごとに個人の歴史を取り上げたことによって時代が前後するが、本全体としては、それでむしろ重層的な歴史を浮き彫りにすることに成功している。

PANA通信社は1949年11月、ハワイ生まれの宗徳和を中心にアジア各国のジャーナリストたちによって創業された。「アジアの、アジア人による、アジアのための通信社」という社是を掲げたPANAは、アジア各地の新聞社にニュースを提供することを主たる業務としてスタートする。会社が登記されたのは香港だが、しかし同社が運営するニュースサービス「PANAニュース」の本拠地は占領下の東京に置かれた。事務所があった朝日新聞社ビルの六階には各国の通信社や新聞社の支局が置かれていて「外電横丁」と呼ばれていたとのくだりは興味深い。「敗戦国日本という磁場」が彼らジャーナリストを引き寄せていたのである

一九六二年、宗は近藤幹雄にPANAを一任し東京を後にする。一九六七年には時事通信に吸収される形で経営権が移り、時事の社長であった長谷川才次によって組織の合理化が進められた。PANAはそれ以降、国際報道戦略をめぐる各国の通信社の競争により深く巻きこまれていく。二〇一三年に社名を「時事通信ソフト」に変えて現在に至っているが、それは創業初期の「アジア人のための通信社」という目的からかけ離れたものになっていた。

宋徳和のいう「アジア」と長谷川才次にとっての「アジア」は異なるという陳加昌(元PANAインドネシア支局)のインタビューを受けて、著者はこう解説する。宋のような華人は「アジアを自分のこととして捉え、その中に身を置いている」のに比較して、長谷川のような「日本人にとってアジアとは対面するものであり、自分自身のことではなかった」のである。つまり、「宋がアジアのための情報をアジアに提供しようとしたのに対し、長谷川の眼中にあるのはあくまでも国際通信社の覇権争いだった」わけだ。

ここには、アジアとは誰か、誰にとってのアジアかという〈発話の位置〉の問題がある。有り体に言ってしまうと、国民国家の枠でしか物事を考えられない近藤や長谷川と、もともと移動を繰り返し、国家の枠に囚われない発想ができる宋や陳にとって、「アジア」は全く異なる意味を帯びてくるのだ。

著者は、「脱亜」と「興亜」のせめぎ合いとして日本知識人の歴史を捉えていた竹内好の言葉をひいてPANAをめぐる状況を読み解く。「脱亜が興亜を吸収し、興亜を形骸化して利用した究極点」として太平洋戦争を位置づけた竹内好は、戦後になっても「日本はアジアでないといいながら、アジアにおける支配権は失いたくないのである」と述べていた。著者は、竹内が喝破した構造が日本人主導になったPANAにもあったことを示唆する。

アジアの今、そして未来を考える上で、これは極めて重要な指摘だ。「単なる国家の集合体」ではないアジアをどう想像すればいいのか。著者のまなざしはそこに向けられている。

この記事の中でご紹介した本
PANA通信社と戦後日本  汎アジア・メディアを創ったジャーナリストたち/人文書院
PANA通信社と戦後日本 汎アジア・メディアを創ったジャーナリストたち
著 者:岩間 優希
出版社:人文書院
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年11月24日 新聞掲載(第3216号)
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