奇想天外復刻版アンソロジー / 山口 雅也(南雲堂)軽いけれども熱い当時の雰囲気をしっかりと掬い取る|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 奇想天外復刻版アンソロジー / 山口 雅也(南雲堂)軽いけれども熱い当時の雰囲気をしっかりと掬い取る・・・
読書人紙面掲載 書評
2017年11月25日

軽いけれども熱い当時の雰囲気をしっかりと掬い取る

奇想天外復刻版アンソロジー
著 者:山口 雅也
出版社:南雲堂
このエントリーをはてなブックマークに追加
「あれ。この表紙、懐かしい」と思わず手が伸びる。しかも二冊。山口雅也編著『奇想天外』〈復刻版〉と〈21世紀版〉だ。そう言われても、若い人や一九七〇年代にはSFに関心がなかった人には、ピンと来ないかもしれない。

雑誌「奇想天外」の発行は三期に分かれている。第一期は一九七四年一月号から同年一〇月号まで一〇冊で休刊した。第一期は海外作品中心で、SFより怪奇幻想やポエティカルな異色短編に寄っており、幻想文学誌「牧神」に近い雰囲気もあった。しかし今日、「奇想天外」という場合、多くの人が思い浮かべるのは、表紙に〈SF専門誌〉を謳い、七六年四月号から八一年一〇月号まで七七冊が発行された第二期のことだ。

当時は、映画『スター・ウォーズ』『未知との遭遇』などの影響もあって、それまで限られたマニアのものだったSFが、急速にメジャー化していた。

第二期「奇想天外」の誌面構成は、ちょっと雑然としており、そのカオスぶりが、若い雑誌らしい不思議なパワーと魅力を醸し出していた。それまで日本で唯一の成功したSF専門誌だった「SFマガジン」が、老舗らしい正統派の端正さを持っていたのとは対照的で、その雰囲気は相前後して創刊された「ビックリハウス」やアニメ雑誌「アウト」に似ていた。その軽いけど熱い雰囲気、きちんと作りこまれておらず場当たり的ながら、楽しいことには敏感に反応する素人臭い好奇心が身上で、今回の〈復刻版〉〈二一世紀版〉は、しっかりと掬い取っている。

一期から三期まで、一貫して「奇想天外」の編集を担ったのは曽根忠穂。「幻影城」の編集人島崎博とはワセダ・ミステリ・クラブ以来の仲間だった人物だ。「奇想天外」はSF専門誌、「幻影城」は探偵小説誌を銘打っていたが、ふたりとも「本当に面白いものは何でも」という意欲を持っていた。第二期の「奇想天外」は日本人作家の作品を積極的に載せ、コラムや評論にも力を入れた。「奇想天外」に連載評論を書くことになる中島梓を紹介したのは、島崎博だった。

「奇想天外」は新人賞を設け、新鮮な感性を持った作家を生み出した。七八年(第一回)では、新井素子「あたしの中の……」、大和眞也「カッチン」、山本弘「スタンピード!」、七九年(第二回)では谷甲州「一三七機動旅団」、竜山守「ヘル・ドリーム」、牧野ねこ(のち牧野修)「名のない家」、八〇年(第三回)では児島冬樹「ドッグファイター」、中原涼「笑う宇宙」が世に出ている。
「当時、新井も大和も高校生で、「SFマガジン」出身の大原まり子と共にアイドル的な人気を博した。〈復刻版〉には大和眞也の「カッチン」と共に第一回新人賞の選評が収録されている。選考委員は星新一・小松左京・筒井康隆という豪華メンバーだった。選評は座談形式で、そういえば「奇想天外」は座談や対談にも力を入れており、それがまたやや脱線混じりに進行していて面白かった。

〈21世紀版〉も、かつての「奇想天外」を踏襲する、いい意味で雑多でマニアックな構成だが、それだけに遊び心を大切にした、豪華な工夫が凝らされている。

アーサー・モリスン、ウィリアム・トレヴァー、アントニイ・バークリー、ボブ・ショウ、それにカミの翻訳は、「奇想天外」の時代というよりも、「奇想天外」が関心を寄せていた戦前のモダン雑誌「新青年」をも彷彿とさせる。一方、日本人作家では新井素子、有栖川有栖、井上夢人、恩田陸、京極綸太郎、宮内悠介、山口雅也など錚々たるメンバーの小説がならぶ。

そしてやっぱり〈21世紀版〉でも異彩を放つのは、コラムや鼎談やインタビューだ。全体にミステリ寄りだし、ジャズの話もあるしで「あんまりSFじゃないじゃないか」と突っ込みたい気もするが、面白いからまあいいか。

この記事の中でご紹介した本
奇想天外復刻版アンソロジー/南雲堂
奇想天外復刻版アンソロジー
著 者:山口 雅也
出版社:南雲堂
以下のオンライン書店でご購入できます
奇想天外21世紀版アンソロジー/南雲堂
奇想天外21世紀版アンソロジー
著 者:山口 雅也
出版社:南雲堂
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年11月24日 新聞掲載(第3216号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
文学 > 日本文学 > ミステリー関連記事
ミステリーの関連記事をもっと見る >