第8回山田風太郎賞 第37回横溝正史ミステリ大賞 第24回日本ホラー小説大賞 贈賞式|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年12月1日

第8回山田風太郎賞 第37回横溝正史ミステリ大賞 第24回日本ホラー小説大賞 贈賞式

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左から山吹氏、木犀氏、池上氏、長谷川氏、染井氏
ヒストリア(池上 永一)KADOKAWA
ヒストリア
池上 永一
KADOKAWA
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十一月二十四日、東京都千代田区の帝国ホテルで、角川三賞の贈賞式が行われた。
第八回山田風太郎賞は池上永一氏の『ヒストリア』(KADOKAWA)が受賞し、選考委員を代表して、奥泉光氏が選考経過を述べた。「今回の選考会は意見が割れましたが、受賞作が持っている熱量は、どの選考委員も評価していました。主人公は沖縄戦を生き延びた女性で、戦後から冷戦期を舞台に、南米に移民して活躍するのですが、ゲバラは出るは、ナチスの残党が暗躍するは、料理も音楽も盛りだくさんの要素が入っています。まるで鍋から中身が噴きこぼれているような小説。ところが噴きこぼれても火が消えないんです。たぶんこの熱の底には、日系移民の方々の物語を残さなければならないという、作家の強い思いがあるのだろうと想像します。また方法としては、これだけ規模の大きい小説を一人称で描いている。途中で主人公が二つに分裂する設定には、分りにくいという声も上がりましたが、私はドッペルゲンガーという仕掛けを作ることによって、奥行きのある小説世界が一人称で語れたのではないかと評価した次第です。これからも池上さんにはアツい作品を書いていただきたいと思います」。池上氏は受賞の言葉に変えて、ボリビアへの郵便の送り方を熱を入れて語り、会場を沸かせた。

第三十七回横溝正史ミステリ大賞は、大賞は受賞作なし、優秀賞は染井為人氏『悪い夏』(KADOKAWA)、奨励賞を長谷川也氏『声も出せずに死んだんだ』(「PH」改題、角川文庫)が受賞した。選考委員を代表して、道尾秀介氏が選考経過を述べた。「今回は、文章の上手い作品がそろっていました。候補作について順番に、「血迷うハイエナ」は、「白磁を思わせる肌」「釣鐘型の乳房」など、安易な文章が目立つように思いました。「真紅の海」は、文章が上手いですし展開も小気味よいのですが、演出に失敗している感がありました。SF的な設定を後出しにして、それをミステリの真相にしてしまっているところがいただけなかった。長谷川也さんの小説は過去に他の賞の最終候補作として読んだことがありますが、今作は前作と文章が全く違い、ストーリーに合わせ文体を書き分ける力を持っていると分りました。ただ主人公の動機に納得のいかないところがあった。「悪い夏」は、僕が是非とも受賞させたいと思った作品です。他の選考委員には、既視感があるという意見もありましたが、やはり優れた作品だと思えたので押しました。一番感心したのはキャラクター造形です。奇矯な人物も、この物語世界には如何にも存在しそうなのです。文章も感心するところがたくさんありました」

第二十四回日本ホラー小説大賞は、大賞は受賞作なし、優秀賞が木犀あこ氏『奇奇奇譚編集部ホラー作家はおばけが怖い』(「文字列の幽霊」改題、角川ホラー文庫)と、山吹静吽(霞澄晴吽改名)氏『迷い家』(KADOKAWA)、読者賞は野城亮氏『ハラサキ』(「竹之山の斜陽」改題、角川ホラー文庫)が受賞した。選考委員を代表して、貴志祐介氏が選考経過を述べた。「今年は様々な新人賞で大賞が出ず、不作の年だったのかと聞かれるのですが、たまたま大賞が出なかっただけで、むしろ豊作だったのではないかと思います。候補の四作とも読みごたえがありました。『野生時代』の選評に、四編を横断するキーワードとして「ゲーム性とゲーム臭」と書きましたが、改めて見ると、今回の四編のキーワードは「異世界」です。個別の怪異のみならず、異世界を描くのは、一段上の技量を求められる。高い志が必要ではないかと思います。「足跡」は、面白い伝承を核に話が展開しますが、境界の設定など着目に筋のよさを感じました。伏線だと思って読んでいたものが、後半全く触れられなかったのが残念でした。「ハラサキ」は異界を繰り返し訪ね、過去に死んだ自分の死体と出会うなど、センス・オブ・ワンダーの横溢した作品。主人公の人物像に好感が持てないところが気になりましたが、年によっては大賞受賞もあり得たのではないか。木犀あこさんの作品は、非常にうまく書けていました。私以外のお二方はこの作品を押していました。この作品で評価すべきは、言葉に対する信頼です。言霊が実態を得るという話ですが、つまり言葉に込めた思いは、けして無にならないと。非常に勇気づけられました。そして私が最も高く評価したのは「迷い家」です。太平洋戦争末期を舞台に、突然山中に現われた広大な屋敷に少年が迷い込むという話ですが、異界に迷い込むときの境界は誰でもおどろおどろしく強調したくなります。しかし淡々とした描写によってかえって異常さを際立たせている。この作者は言葉の力を信じている。読者の理解力を信じて書いているのではないかと。クライマックスのシーンは、小説でなければあり得ないもので、エンターテインメントの力を感じました。このシーンは、ホラー大賞の歴史の中で、五本の指に入ると思います。それぐらい読書の喜びを感じました。四人とも頑張っていただきたいと思います」

三賞ともに熱のこもった選考経過が語られた。その後座を移し、和やかな祝賀の宴となった。

この記事の中でご紹介した本
ヒストリア/KADOKAWA
ヒストリア
著 者:池上 永一
出版社:KADOKAWA
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年12月1日 新聞掲載(第3217号)
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