【横尾 忠則】絵の運命は絵のみぞ知る 映画の魅力、作り物の魅力|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの内側
2017年12月5日

絵の運命は絵のみぞ知る 映画の魅力、作り物の魅力

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アトリエにてレスリー・キーさんと撮影中
2017.11.20
 「アイデア」の表紙写真をフィリピンのカメラマン、レスリー・キーが大勢引きつれて参上。ひとり言を言いながら、くねくね躰をよじらせて押すシャッターには無駄がない。つい対決気分にさせられる。昔の「アイデア」は特撮するほどの予算がなかっただけに、彼のペースに若い編集者の西さんは翻弄されているのではと余計な心配をするが、彼女意外と度胸が据わっている。きっと期待をうわまわる特集号になるに違いない。

夕方、中田先生の足治療。季節の変化に応じて治療個所が移動するそーだ。躰も自然の一部だから当然なんだろう。

2017.11.21
 舞台はまたまたホテル。よくこれだけ飽きもせずにホテルが夢の舞台になるものだ。大広間の片隅で在日アジア系の恰幅のいい中年男がぼくの知らないぼくの人生について、予言者の如くペラペラ話す。つまりぼくを支配する運命に何かが霊的関与をしているというような内容の話だが、覚醒と同時に記憶は無。こーいう場合、無意識層に叩き込まれているのか、それとも単なるとりとめもない雑念夢か。

東宝スタジオへ明日から制作のタイトルバックの準備に。一筆一筆コマ撮りしながら絵が描かれるプロセスを観客に見せることになるが絵の結末は自分にもわからない。時間稼ぎをする必要があるので描いては消し、消しては描く作業を何十回、何百回繰り返すことになるのだろう。

今日は真冬のように寒い。冬至まで一ヶ月、どんどん夜の底に落下するように時間が消滅していく。

2017.11.22
 帰宅すると家の中が真暗で妻もいないかと思っていたら台所だけが薄ぼんやり灯りがついていて、ひとりで食事をしている。いつの間に入ってきたのか黒い大きい犬が彼女の足元にどたりと仰向けに腹を見せて寝そべっている。見ると子猫が、ざっと数えると20匹、その中に1匹だけ白い渦を巻いた子猫が交じっていて一斉に授乳中だ。わざわざ夢だと断らなくてもいいような情景だけれど、一応夢ということなんです。

9時半に濵田さんが来て、東宝スタジオへ。本日からスタートするタイトルバックの制作にかかるが、さて何日で描き上るか予測がつかない。2日で完成するかも知れないし、3日、4日と超過するかも知れない。出たとこ勝負の作業はぼく的である。実に原始的なアニメーションを作る作業に近い。

午後、磯﨑憲一郎さんと講談社の森山悦子さん来訪。彼の新刊『鳥獣戯画』を贈本されるが本文中にぼくが登場する、といっても名前だけだが、この間は保坂和志さんの小説にも顔を出すが、その昔、野坂昭如さんの小説にも実名で登場したことがある。虚構に実像が侵入するってどーいうこと? ヌーベルバーグの映画ではしばしば虚構の現実化なんて流行った時代があったように思うが――。

2017.11.23
 雨。濵田さんが来て東宝スタジオへ。昨日に続いて辛気臭い作業が続く。絵が完成して、スクリーンに映ると、何もない白いスクリーンに絵がどんどん描かれていくという仕掛けだが、やっていることはちっとも新しくはない。

昼休みの楽しみは食堂での食事だ。揚物を避けて、ラーメンなどの麺類を選ぶことが多い。見てくれは悪いけれど味はそれなりにイケる。肉体労働者にはピッタリの食事だ。
山田洋次監督と東宝スタジオでタイトルバック制作中(撮影・濵田雄一郎)

2017.11.24
 晴天、微風、寒冷。

東宝スタジオ3日目。昨日の絵をガラリと一変させるそんな快感はあるが、果たしてこの絵の運命は絵のみぞ知るで、作者のぼくには内緒らしい。

3時にアトリエに戻ってユニバーサル・サウンドデザインの社長が来訪して、難聴補助器の説明に。補助器がなければテレビの歌番組は下手な作曲家の曲を下手な歌手が歌っているようにしか思えないが、この新兵器で少しは上手な歌に聴こえる。

2017.11.25
 今日は三島由紀夫さんの47回忌。生きていれば92歳? 今、現役だとしても、天才的に頭のいいのも天才的に口の悪いのもさほど変らないと思う。

東宝スタジオの屋上で終戦当時の東京の焼跡風景のミニチュアセットの撮影を見学。映画の魅力は作り物の魅力でもある。大の大人が沢山寄ってたかって子供のように「遊んでいる」光景は幸せそのもの。野次馬のぼくにはそう見える。

夕方、ちょうど描き上った瞬間に長野のロケから東京に帰還の山田洋次監督現わる。監督の予想を裏切れたかな。

2017.11.26
 東宝スタジオ最終日。明日からスタッフ全員が広島ロケへ。制作期間中、毎日不眠気味だったので、この前初めて施術を受けた整体院カフナ成城へ。(よこお・ただのり=美術家)

2017年12月1日 新聞掲載(第3217号)
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