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八重山暮らし
2017年12月5日

八重山暮らし⑳

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苧麻や芭蕉など績んだ糸を入れるための用具。膝に載る程の大きさだ。
(撮影=大森一也)
サックイ


かつて島では、おんなの子が生まれると庭にセンダンの木を植えた。やがて嫁に行く娘に箪笥や衣装箱を持たせるために。センダンは指物に適した良材で虫が付きにくい。残った端材で糸入れ用具がつくられた。小さな引き出しがあり、櫛や簪(かんざし)などの身の回り品を仕舞った。竹富島ではサックイ、石垣島ではスクイと呼ばれている。

ランプや火鉢の灯りのもと老齢のおんなたちが苧麻や芭蕉を糸に績んでいる。その手には婚約の印として施された入れ墨がある。膝元のサックイには績まれた糸が白々とたまっている。
「夜な夜な集まる祖母たちの姿が忘れられん。記憶にこびり付いているさぁ」

その祖母の年をすでに超えた織り手は、サックイと共に在った暮らしぶりを懐かしむ。島々によって糸入れ用具の名は変わるが、刻まれた光景はみな一様だ。

潮が引いた時刻を見計らい、祖母たちは糸績みの手を休め、イザリ(漁)へと夜の海に連れ立つ……。年かさのおんなたちの輪には、若い者がおいそれと立ち入れない透徹した空気が醸し出されていた。

日常の用に長年応え、黒ずんだサックイ。島のおんなのひたむきな生きようを見つめ続けてきた。昨今、真新しいサックイと出合うことは希となった。センダンを庭に植える習わしも聞かれなくなって久しい。

2017年12月1日 新聞掲載(第3217号)
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