ケルト 再生の思想 ハロウィンからの生命循環: ハロウィンからの生命循環 / 鶴岡 真弓(筑摩書房)ハロウィンの「古層」にみる四季循環の生命力|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年12月2日

ハロウィンの「古層」にみる四季循環の生命力

ケルト 再生の思想 ハロウィンからの生命循環: ハロウィンからの生命循環
著 者:鶴岡 真弓
出版社:筑摩書房
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ヨーロッパ北方の冬の訪れは日本よりも早く、劇的だ。日本が収穫の余韻に浸る神無月、欧州の太陽は既に冬の弱々しさへ泥み、南天の半ばで上昇を諦めて地平線へと駆け入っていく。空はしばしば陰鬱な雲に覆われ、午後の3時を周る頃には日没がひたひたと迫る。「ハロウィン」と「万霊節」を境にして、闇の季節である長い冬がやってくるのだ。本書は冒頭の章において「闇の半年」の始まりを告げる古代ケルト人の祀り「サウィン」こそ、今日の「ハロウィン」の祖型であることを開示する。

サウィンにおいて生者の元を訪れる死霊は、近代的な「重「金」主義」が打ち滅ぼし、倒すべき邪霊として矮小化した「ゴースト」ではない。先に地上を去った無数の生命が、より強い力と深い智恵を宿して蘇った「スピリット」なのである。精霊たちは冬の常闇が開く晩、今ある地上が驕る生者の占有物ではなく、経済的劫掠の狩場でもないことを人間たちに思い起こさせるのだ。同時に精霊たちは、自然と現世の厳しい風に吹かれてよろめく生者を励まし、束の間の生命を輝かしくする知恵や力を贈る存在でもあるという。

著者は「死」の暗闇こそ「生」と「再生」の始まりであると観じたヨーロッパ文明の「古層」に深く思いを馳せながら論を紡ぎ出していく。祭暦のなかで大循環する「死」と「再生」のスパイラルを読み解き、具体的事例や傍証をケルトの神話や後代の文学作品、さまざまな芸術に隠された形のなかから丹念に拾い集めて読者に提示する。サウィンに始まる「生死反転」の歳時記は春の始まりを告げるインボルクに続く。アイルランドにおいて最も崇敬されるキリスト教の聖女ブリギット。その緑の牧草の奇跡譚は前身である異教の女神ブリガンティアの記憶を呼び覚ます。冬のサウィンと対蹠的な「光の半年」の始まりベルティネ。サウィンから半年地上を覆った闇夜の精霊たちが、メイポールの踊りの環や森のなかで交歓する若者たちの、漲り飽和する生命によって吹き払われる。秋の始まりにして収穫祭であるルーナサ/ラマスには、穂麦を編んで作った乙女の形代が穀霊の象徴として現れる。祭暦の運行のなかに「異教」と「古層」の生命が宿り続けてきたのだ。祀りの環は最後の章で解かれる『ケルズの書』の驚異的な造形に連動し、神話と装飾の深い共振が述べられる。

著者は『ケルト/装飾的思考』を皮切りとする著作を通じ、芸術と文明の歴史における装飾/文様/意匠の放つエネルギーについて、「ユーロ=アジア」を大きく跨ぐ探求を重ねてきた。著者の思念はヨーロッパ、東アジア、インドの大地を俯瞰し、西の果てアイルランドのモハーの崖にまで飛翔する。章を重ねるごとに現れる祀りと造形、装飾の物語は「ユーロ=アジア」に生起した文明の大循環を、さながら御伽草子の四方四季の庭のように、眼前に幻視させてくれる。本書が示す想像力の旅路は、螺旋形に渦巻き再生の炎を吐くあの『ケルズの書』の獅子のように、読者の生を喚起してやまない。

この記事の中でご紹介した本
ケルト 再生の思想  ハロウィンからの生命循環: ハロウィンからの生命循環 /筑摩書房
ケルト 再生の思想 ハロウィンからの生命循環: ハロウィンからの生命循環
著 者:鶴岡 真弓
出版社:筑摩書房
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2017年12月1日 新聞掲載(第3217号)
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