悲しみよ こんにちは / フランソワーズ・サガン(新潮社)『悲しみよこんにちは』 フランソワーズ・サガン著 上智大学 乙部 修平|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年12月2日

『悲しみよこんにちは』 フランソワーズ・サガン著
上智大学 乙部 修平

悲しみよ こんにちは
著 者:フランソワーズ・サガン
出版社:新潮社
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不倫報道は今に始まったことではないが、近頃の報道数の多さには目を見張るものがある。

もはや不倫に男女の差はない。いつスクープされてもおかしくない芸能人や政治家でさえこの有様なのだから、一般人を含めたらどれほどの不義が交わされていることだろう。不倫はもはや、人の性と言ってしまってもいいかもしれない。

では、どうして人は不倫をしてしまうのだろうか。理由はそれぞれであろうが、それについて興味深い一例を示してくれる小説がある。

今ではフランスの三大女流作家の一人として数えられるサガンが十八歳の時に書いた処女作『悲しみよ こんにちは』。登場人物ひとりひとりの心情が繊細に表現されている作品だ。

主人公である十七歳の少女セシルは幼い頃に母を亡くしており、プレイボーイな父レイモン、そしてその愛人のエルザとともに一夏のヴァカンスに訪れる。しかしそこに母の旧友であり、美しく聡明な女性アンヌが現れたことにより、レイモンの気持ちは徐々に揺れ動いていく。その後、エルザと破局に至ったレイモンは、老齢に差し掛かっていることもあり、アンヌとの結婚を決意するが、快楽的な人生を否定し、生活に規範をもたらそうとする彼女に反発を覚えたセシルは、レイモンが再びエルザと浮気するように仕向け、その企みは成功するものの、そのことが原因である悲劇が引き起こされる。

といった筋書きである。

この小説は素直な読みをするならば、少女セシルの成長物語として捉えることができる。これまで快楽的に生きてきたセシルが、初めて規範というものに触れ、理知的な大人の女性へと変化する可能性の中で揺れ動く物語。

だが今回、注目したいのは父レイモンの心情である。彼は何故、婚約者がいながら浮気に至ったのか。元々、彼は半年ごとに愛人を変えるようなプレイボーイな性分だったが、それだけでは終わらせられない巧みな葛藤が、この作品では描かれている。

そもそも彼は老いによる「枯渇」の問題を一因として、生活に「秩序」をもたらしてくれるアンヌとの結婚を決める。しかしセシルの画策により、彼は<ねえ、一日だけ大目に見てくれよ。僕はあの娘のかたわらで、自分が老いぼれじゃないと納得しなくちゃならないんだ>と感じ、浮気に至る。これは客観的に見れば、アンヌへの裏切り行為に他ならないかもしれないが、実は彼なりの誠意であったのではないかと私は思う。

彼はこれまでの享楽的な暮らしを捨て、アンヌとの結婚生活を真剣に考えていた。そこで折り合いをつけることを必要としていた。つまり彼は決して心変わりしたのではなく、これからの変化に乏しい夫婦生活を受け入れるために、最後の記念的な意味合いでエルザを抱いたのだ。言い訳がましく聞こえるかもしれないが、レイモンの浮気はアンヌを思ってこそだった。そう考えることはできないだろうか。

世の中にはそんな、矛盾に満ちた、逆説的な愛が存在するように思える。結局、全ては後付けで、本心を分かり合うことなんてできない。だからこそ人は、傷つけ、傷つけられながらも、何かに期待し、何かを愛さざるを得ないのではないだろうか。

この記事の中でご紹介した本
悲しみよ こんにちは/新潮社
悲しみよ こんにちは
著 者:フランソワーズ・サガン
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年12月1日 新聞掲載(第3217号)
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