三木清とフィヒテ / 玉田 龍太朗(晃洋書房)新しいフィヒテ像を提示  学問への情熱に満ちた書物|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年12月2日

新しいフィヒテ像を提示 
学問への情熱に満ちた書物

三木清とフィヒテ
著 者:玉田 龍太朗
出版社:晃洋書房
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今年は、三木清の生誕120年にあたる。三木清は、旧制龍野中学校から第一高等学校に入学し、さらに、西田幾多郎を慕って京都帝国大学哲学科に進学した。そのあと、ドイツのハイデルベルク大学とマールブルク大学に留学した。マールブルクでハイデッガーに出会いそれが、一種の運命になった。九鬼周造とならんでハイデッガーを日本に紹介した一人である。

三木清は、戦前において軍部との関係を問われていた狭義の「京都学派」の外に居ながら個人的には西田幾多郎の極めて近くにいた非常に有能なしかも著名な哲学者であった。彼は、社会情勢についても議論しており、今日の言葉で言えば、評論家に近い学者であった。現在の日本の哲学者では、一般に、学会・学界に閉じこもるのが普通で、社会の中で発言する人は極めてまれである。しかし、三木清はジャーナリズムにおける発言も多く、極めて多作であり、多くの著作を出版している。私たちの若い頃は、哲学を志す人は幾分か三木清の影響を受けたと思われる。文章と表現は、晦渋な西田幾多郎の文章と比べて、非常に明解で明晰であった。本書は、三木清の母校、旧制龍野中学校(高校)の遥かな後輩が、三木清とフィヒテについて論じた極めてユニークな書物である。著者は、しかも、現在神戸で中学・高校の教師をしながら本書をものしたのであり、学問への情熱に満ちた書物である。とはいえ、哲学研究者としての訓練は十分に受けており、京都大学博士である。

第一章、三木清とフィヒテ、第二章、「現代」とは何か、第三章、三木清の回心、第4章、「ドイツ国民に告ぐ」における衝動の問題、第5章、フィヒテの言語論における衝動の問題、第6章、フィヒテの高等教育施設論の特性という内容からなっている。このような内容一覧から分かるように、三木清とフィヒテの全容を解明するものではなく、むしろ、著者の関心に応じて本書を纏め上げたといえよう。特筆大書するべきは、新しいフィヒテ像が提示されているところである。たとえば、フィヒテの言語哲学が解明されているところ(第5章)と、フィヒテの教育論が「高等教育施設」との関連で明らかにされているところ(第6章)である。

これらの論点が私には非常に新鮮であり、重要であった。今日においても重要である。哲学の授業というのは、ソクラテス、プラトン以来「師と弟子の間の対話の継続」であり、私の概念で言えば、「問いと答えの往復運動」である。高等教育施設においては、フィヒテはまさしくこのソクラテス的な学校という意味での真のアカデミーの展開を期待したのである。(p132―133)

私は必ずしもフィヒテの哲学の根本の態度、主観主義や自我中心主義(たとえば「心に内在する進歩の衝動」p110)には賛成できないし、また率直に言って肯定出来ないのであるが、しかし、若い学徒の新鮮さを感じさせる書物であるのは間違いがないので江湖に広く読んでいただきたいと思って筆を取っている。

フィヒテの論点としては、衝動の問題を著者は一貫して考察している。この衝動が主観に内在的であるといえども衝動の持つ世界への開けをも著者は明瞭に見抜いている。それゆえに、三木の環境論を取り上げて、環境とは雰囲気に他ならないというテーゼを紹介している。(p40―41)これは、今日においても重要な論点である。

この記事の中でご紹介した本
三木清とフィヒテ/晃洋書房
三木清とフィヒテ
著 者:玉田 龍太朗
出版社:晃洋書房
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年12月1日 新聞掲載(第3217号)
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小川 侃(おがわただし)哲学者、現象学者、京都大学名誉教授、豊田工業大学文系アドバイザー
大阪府生まれ。その理論の特徴はフッサールの統一的な把握(統覚)理論を破壊して現象学の現象概念を「現われの理論」として洗練することにある。現われの理論を構造理論(ロマン・ヤコブソン)と媒介して、フッサール、ハイデッガー、ヘルマン・シュミッツの解釈を基にして氣氛や雰囲氣の理論を構築し、政治の問題に適用しようとしている。哲学の歴史においては現象学の方法で古代ギリシャ哲学、シェリング、ベルクソン、エミール・デュルケームを再解釈している。「気」の理論を中心にしてさらに後期水戸学(藤田幽谷、藤田東湖など)への関心と造詣も深い。「身」と氣の哲学の体系化を目指している。 2008年に京都大学を定年まで一年を残したところで退官した後、人間環境大学の学長に就任。経営危機に瀕した大学の経営再建を期待されたが、運営する学校法人岡崎学園理事長の退任に伴う運営体制刷新のあおりを受け、わずか2年で退任。その後同大学特任教授に就任したが、これも1年で退職している。 2011年5月-8月にはドイツ、リューネブルク大学客員教授。さらに2012年4月に、甲子園大学学長に着任。二年の任期を終了して、2014年3月に学長を退任。2010年から豊田工業大学の文系アドバイザーを務める。現在はドイツ、ヒルデスハイム大学客員教授、豊田工業大学非常勤講師。
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