第七十一回毎日出版文化賞  贈呈式開催|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年12月8日

第七十一回毎日出版文化賞  贈呈式開催

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(受賞者)前列左から東氏、古処氏、三人置いて、千葉氏、田川氏、前野氏
11月30日、ホテル椿山荘東京にて第七十一回毎日出版文化賞(特別協力=大日本印刷株式会社)の贈呈式が開催された。受賞作は、文学・芸術部門が古処誠二著『いくさの底』(KADOKAWA)、人文・社会部門が東浩紀著『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン)、自然科学部門が千葉聡著『歌うカタツムリ』(岩波書店)、企画部門が田川建三訳著『新約聖書 訳と註 全七巻(全八冊)』(作品社)、特別賞として前野ウルド浩太郎著『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社)が選出された。
選考委員を代表して鷲田清一氏は、今回の選考評を次のように述べた。

「出版はもちろん、自由(Liberty)にかかわるものだが、もう一つ、本には(辞書的な意味の)気前のよい(Liberal)という本質があるのではないかと思っている。本には書き手が悩み考え抜いた膨大な時間が注ぎ込まれ、多くの人に惜しむことなく分け与えられる。それが本だと考えると出版のリバティとともに本のリベラリティも大事なことだと思う。受賞作は二重の意味でリベラルの息吹溢れる五作だった。
いくさの底(古処 誠二)KADOKAWA
いくさの底
古処 誠二
KADOKAWA
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古処誠二氏の『いくさの底』は、膨大な資料の調査に基づき、いわば戦場のリアル、戦場の中の日常を描き出し、現代社会の私たちのリアルの根底をも照らし出す比類のない作品で、彼にしか描き出せない時代のリアルを描いている。
東浩紀氏の『観光客の哲学』は、政治的な行動と非政治的な行動、政治とその外という二分法の中で語られることが多い政治について、それを乗り越える形として観光客のふるまい、そういう存在の時代的意味を考え、そこから新しい政治の形を掴む。政治を思想と文学の想像力によって足元に取り返す。そういう強い意志を持った大胆な試みだと思った。同時にアカデミズムの外で自ら表現・対話の自由な海路を切り拓き、その意味でも彼の行動は高く評価されるものである。
千葉聡氏の『歌うカタツムリ』はカタツムリの縞模様や渦巻の向きといった生物の生態の細部から進化論の世界的な大論争史へと一気にストーリーを繋げていく、そのダイナミックな構成に感服した。学問はものすごく微小な部分と全体とをダイナミックに行き来する、あるいは有用無用のような二分法の遙か彼方の高みを目指すもの。そういう学問のスケールの大きさと楽しさを魅力的な文体で存分に味わえた。
田川建三氏の『新約聖書 訳と註』は総頁数六〇〇〇頁にもなる、しかも訳文のみならず九割が註で、その註も文献学的な註だけでなく、そこに人間という存在への深い問いかけが切実な生々しい声として間に挟まれていて、まさに自分の骨を削るような、ライフワークという表現はこの著作にこそふさわしい。
前野ウルド浩太郎氏の『バッタを倒しにアフリカへ』は痛快で破天荒な若い研究者の自叙伝でとにかく面白い。子供の時からの虫に食べられたいという夢を持ち続け、大人になってアフリカの砂漠でバッタ研究をすると同時に食糧問題の解決にも取り組み、現地でウルドという敬称も授けられた。好きなことをとことんやるという覚悟を持たれ、研究を続けるために京都大学白眉プロジェクトに応募、一発逆転を狙って挑んだ総長面接でのエピソードは、読んでいる私も胸がいっぱいになった。

以上五作は非常に微小なもの、小さな事柄そういうことへの関心をとてつもなく大きな思想や発見へと繋げていくスケールの大きな仕事ばかりで、本当にリベラル満開の素晴らしい筆の力を見せてもらった」。

贈呈式では、各受賞者並びに出版社が表彰を受け、各受賞者によるスピーチで、八二歳になられるという田川氏は、「学者として当たり前の義務を果たしたまで。このような輝かしい賞をいただいて気恥ずかしく、照れくさい」としながら、喜びと感謝を述べ、「この種の賞は若い著者に対して(今後も期待を込めて)出されるもの。しかし、賞を受け取ってしまった以上もうしょうがない(笑)。私も少なくともこのあとの数年間はもう一つ大きな仕事を仕上げるために必要な努力をし続けなければいけないのかなあと思っている」とユーモアを交えて語り会場を沸かせた。特別賞の前野氏は、モーリタニアの民族衣装(ダラー)で登壇、「本日は欠席する予定で既にビデオレターを送っていたが、今年はアフリカにバッタがおらず、すごすごと緊急一時帰国した。今回の本は編集の方と“誰かに薦めたくなる本”を合言葉に推敲を重ねてきた。特別賞という広く読者に支持された本に与えられる賞をいただけたことで最初に誓い合っていたことが形となって実現し、心から嬉しく思っている」と満面の笑顔で喜びをあらわした。最後に受賞出版社を代表して作品社代表取締役社長の和田肇氏によるスピーチが行われ、その後は盛大な祝賀パーティーが開催された。
この記事の中でご紹介した本
ゲンロン0 観光客の哲学/株式会社ゲンロン
ゲンロン0 観光客の哲学
著 者:東 浩紀
出版社:株式会社ゲンロン
以下のオンライン書店でご購入できます
歌うカタツムリ 進化とらせんの物語/岩波書店
歌うカタツムリ 進化とらせんの物語
著 者:千葉 聡
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
いくさの底/KADOKAWA
いくさの底
著 者:古処 誠二
出版社:KADOKAWA
以下のオンライン書店でご購入できます
新約聖書 訳と註 第七巻 ヨハネの黙示録/作品社
新約聖書 訳と註 第七巻 ヨハネの黙示録
著 者:田川 建三
出版社:作品社
以下のオンライン書店でご購入できます
バッタを倒しにアフリカへ/光文社
バッタを倒しにアフリカへ
著 者:前野 ウルド 浩太郎
出版社:光文社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年12月8日 新聞掲載(第3218号)
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