辻井竜一『遊泳前夜の歌』(2013) 総務課の田中は夢をつかみ次第戻る予定となっております|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2017年12月12日

総務課の田中は夢をつかみ次第戻る予定となっております
辻井竜一『遊泳前夜の歌』(2013)

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前回の吉岡太朗の歌に引き続き、電話での決まり文句をひねったパロディ短歌をもう一首。こちらは企業の電話取次ぎをする際の決まり文句が元ネタになっている。なおこの歌が含まれている連作は「総務課の田中」というタイトルで、総務課の田中がいろいろと非日常的な理由により電話に出ることができない状況が、電話取次ぎの決まり文句を引用するかたちでずらっと並んでいる。そのうちの最後の一首がこれである。

いたって平凡で匿名的な存在として「総務課の田中」という名前が選ばれているわけだが、海を見に行くために不在だったり、次の一目惚れまで休みをもらっているから不在だったり、田中のせいで冷蔵庫は水羊羹でいっぱいだったりする。伝言のかたちだけでしか登場しない田中の、会社員にはとても向いていそうにないけれど魅力的な夢想家ぶりに惹きつけられてゆく。そして、そんな田中に何度も何度もコンタクトをとろうとする電話の相手と、田中の奇行をあっけらかんと伝えてしまう電話の受付係の、ユニークなキャラクター性まで徐々に浮かび上がってしまう。なんだかんだで愛されている人物なのだろうか、田中。結局田中は夢をつかんで会社に戻ることはできたのだろうか。

一定の設定と文体に沿って言葉をハメてゆく大喜利のようなタイプの歌なので、この作品を受けて読者が「総務課の田中」シリーズを続けてゆくことも可能だろう。それも現代の短歌の一つのかたちかもしれない。

この記事の中でご紹介した本
遊泳前夜の歌/角川学芸出版
遊泳前夜の歌
著 者:辻井 竜一
出版社:角川学芸出版
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年12月8日 新聞掲載(第3218号)
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