2017年の収穫 41人へのアンケート|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年12月15日

2017年の収穫 41人へのアンケート

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年末恒例のアンケート特集「2017年の収穫」を今年もお届けします! 

さまざまな分野の専門家、研究者、作家、書評家、編集者、書店の方などに、今年印象に残った三冊を自由に選んでいただきました。

気になっていたあの一冊、見逃していたこの一冊があなたもきっと見つかるはずです!
(編集部)



illustration:内田春菊
http://shungicu.com/


【2017年の収穫 執筆者一覧】

青木亮人(近現代俳句研究者)/荒川洋治(文化学院講師)/上村忠男(東京大学名誉教授)/江川純一(東京大学大学院助教)/江南亜美子(書評家)/笈入建志(往来堂書店店主)/小野俊太郎(文芸評論家)/角田光代(作家)/角幡唯介(作家・探検家)/風間賢二(幻想文学研究家・翻訳家)/金原瑞人(翻訳家)/神藏美子(写真家)/栗原康(アナキズム研究)/越川芳明(明治大学教授)/小林章夫(帝京大学教授)/小松美彦(科学史・生命倫理学)/佐久間文子(文芸ジャーナリスト)/篠木和久(ブルーバックス編集長)/佐々木力(中部大学中部高等学術研究所特任教授)/佐藤洋二郎(作家)/重信幸彦(民俗学)/宍戸立夫(三月書房店主)/柴野京子(上智大学准教授)/田中和生(文芸評論家)/谷藤悦史(早稲田大学教授)/外岡秀俊(作家・ジャーナリスト)/豊﨑由美(書評家)/中村邦生(作家)/中森明夫(作家・アイドル評論家)/西野智紀(書評家)/橋爪大三郎(社会学者)/東直子(歌・作家)/福井健太(書評家)/福間健二(詩人・映画監督)/藤田直哉(SF・文芸評論家)/堀千晶(仏文学者)/枡野浩一(歌人)/松永正訓(小児外科医・作家)/山本貴光(文筆家・ゲーム作家)/吉田裕(一橋大学教授)/明石健五(本紙編集長)
第1回
福間健二

添田馨『天皇陛下〈8・8ビデオメッセージ〉の真実』(不知火書房)は、いまの天皇が「象徴」であると同時に人として存在することの意味を啓蒙的に説く。その平明さ。心を感じさせる状況論だ。この著者は勢いにのって詩集『非=戦(非族)』(響文社)では叙事を突き破るような「爆発」を仕掛けている。
加藤典洋『もうすぐやってくる尊皇攘夷思想のために』(幻戯書房)は、いわば無理しない無理をやっている。天皇の「要望」に耳を傾けながらも、天皇制にも憲法九条にも依存しないという思考の道を探って、複雑さを厭わない。いま、このくらいの濃さでものを言うことが大事なのだと思った。
秋山基夫『文学史の人々』(思潮社)は、過去の文学への向かい方として画期的なものがある。「書きたいように」読めばいいのだし、ときにはわざとよそ見をして隙をつく。詩集『月光浮遊抄』(思潮社)とともに、過去との交通で日本的な「私」に抵抗している。(ふくま・けんじ=詩人・映画監督)
神藏美子

荒木陽子全愛情集(荒木 陽子)港の人
荒木陽子全愛情集
荒木 陽子
港の人
  • オンライン書店で買う
荒木陽子『荒木陽子全愛情集』(港の人)。『センチメンタルな旅』に写されたショッキングな喘いでいる性交写真を、写真集の全体から捉えて「なぜか切ない気分、愛しい気分(生きることに対して夫に対して)が胸の底に漂い始める」と写真を発表することを許容した天才の伴侶、陽子さんの並々ならないインテリジェンスに触れる本。
鈴木邦男『天皇陛下の味方です国体としての天皇リベラリズム』(basilico)20年前に拙著『たまゆら』で鈴木邦男さんに女装していただいた時、鈴木さんの柔軟でしなやかな精神に驚いた。正直で清い精神に導かれながら、天皇について、今の政府の禍々しさについて、日本について公平に考える事ができる本。「わたしは鈴木邦男の味方です」と叫びたい。
麿赤兒『完本麿赤兒自伝』(中公文庫)演劇を観るごとくエキサイティングな麿さんの熱いアングラ一代記。文章がべらぼうに面白い。「この世に生まれ入ったことこそ大いなる才能」生きていることを全肯定する深~い人間愛が伝わる。(かみくら・よしこ=写真家)
佐藤洋二郎

富岡幸一郎『虚妄の「戦後」』(論創社)。戦後、七十数年もすぎているのに、わたしたちはいつまで「戦後」という言葉を引きずっていくのだろう。著者は、文芸評論家、大学教員、鎌倉文学館館長と、今日、社会に最も大きくコミットしている人物だが、本書はその著者の戦後を問う書物。未来は過去からしか学べないということを改めて提示している。
藤本寿彦『幸田文「台所育ち」というアイデンディティー』(田畑書店)。近年、若者の読書離れを嘆く人が多くなってきたが、なぜなのかと思うことがある。そんな中でも文学好きな人はいる。本書の著者もそういった人物ではないか。幸田文のことを丹念に調べ上げ、中身の濃い、読み応えのある労作となっている。
岩佐壯四郎『点景昭和期の文学』(関東学院大学出版会)。書名の通り、川端康成や三島由紀夫、福田恆存などを取り上げたものだが、作家・作品論とは別に、彼らの演劇関係の論考を交えたところが新しい。文学の味わいもあった。
(さとう・ようじろう=作家)
宍戸立夫

清家雪子『月に吠えらんねえ』(既刊七冊/講談社)。詩歌句が苦手で面白いと思ったことがほとんどない。よーするに下戸が酒屋をしているようなものですが、この漫画を読んで少し面白いかもと思えるようになった。それにしても、現代には朔太郎、白秋、中也、賢治らに匹敵しうる詩人が皆無と思われるのは、小生が詩歌句オンチだからでしょうか。
上村武男『遠い道程わが神職累代の記』(人間社)。『吉本隆明手稿』(弓立社)などの著書がある人の本なので読んでみたら、地方の小社のありかたとか、神主一家の暮らし向きとかなかなか興味深かった。神社はぼちぼち古来の神仏混淆に戻したほうがよいのでは。
ライアン・エイヴェント『デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか』(東洋経済新報社)。AIによって従来の仕事の多くが食えなくなる日が近いという話題には大きな関心がある。さっさと店じまいし、隠居老人として高見の見物をしたいなと希望しているのですが…。(ししど・たつお=三月書房店主)
福井健太

反英暴動から雨傘革命までの香港史を遡る逆年代記にして、名刑事が活躍する巧みなミステリ連作集でもある陳浩基『13・67』(天野健太郎訳、文藝春秋)は、翻訳小説界の大収穫に違いない。ヨン=ヘンリ・ホルムベリ編『呼び出された男』(ヘレンハルメ美穂・他訳、早川書房)は、マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーからスティーグ・ラーソンやヨハン・テオリンまで、十七篇のスウェーデンミステリを纏めた好アンソロジー。ジャンル小説の見本市に留まらず、現地の社会や空気までも感じさせる一冊だ。イバン・レピラ『深い穴に落ちてしまった』(白川貴子訳、東京創元社)は、森の奥の穴に落ちた兄弟のサバイバルを描く不条理劇。正体不明の兄弟、素数のみの章番号、不可解な言葉などを織り込み、意味ありげな気配を濃密に漂わせ、アクティヴな解釈を促す刺激的な寓話である。(ふくい・けんた=書評家)
江南亜美子

最愛の子ども(松浦 理英子)文藝春秋
最愛の子ども
松浦 理英子
文藝春秋
  • オンライン書店で買う
松浦理英子『最愛の子ども』(文藝春秋)は、私立高の仲のよい女子生徒が、パパ、ママ、王子様の疑似家族を形成するさまを、クラスメイトの〈わたしたち〉が見守る小説。著者によるひとつの発明であるこの奇妙な語り手は、まだ名の付いていない流動的な人間関係をくっきり浮かび上がらせる。企み、巧み。
テジュ・コール『オープン・シティ』(小磯洋光訳、新潮社)ではドイツとナイジェリアの血を引く「私」が、黄昏時のニューヨークを散歩する。移民性とアイデンティティという今日的な主題をスタイリッシュに描く優等生的な小説と思わせつつ、一人称らしい「信用のならなさ」で加虐の問題にも踏み込む。黒人文学の概念が更新されるよう。
國分功一郎『中動態の世界』(医学書院)。能動でも受動でもない「中動態」という動詞の態に注目し、人間の意思や自由とは何かに迫る。内容自体の面白さに加え考察の手順が鮮やか。ケア論へ結びつく実効性も。(えなみ・あみこ=書評家)
越川芳明

(1)木村哲也『来者の群像大江満雄とハンセン病療養所の詩人たち』(水平線)
(2)四方田犬彦『署名はカリガリ――大正時代の映画と前衛主義』(新潮社)
(3)今福龍太『ハーフ・ブリード』(河出書房新社)
(1)全国のハンセン病療養所を訪ねて、ハンセン病者の詩人たちにインタビューした、その「探訪記」。著者の行動力と、淡々とした筆づかいの中にふとのぞく熱い詩情に魅せられる一方、ハンセン病者のかつての文芸活動に焦点をあてて、それを歴史に刻んでおかなければいけないという執念にも心打たれた。(2)大正期の日本に異常発生した前衛芸術(特に谷崎潤一郎、大泉黒石、溝口健二、衣笠貞之助らによる映画と文学)を題材にしていて、作家周辺のゴシップネタを挟むなど、読み物としても面白い。従来の固定的な作家像を打ち壊し、もう一つの作家像を提示しようとする強い意思に貫かれている。(3)「絶望」を「希望」に反転させるダイナミックな思想を鍛え上げてきたチカーノ詩人たちを、著者の浩瀚な知識に基づいて、熱くかつ詳細に語った優れた研究書。トランプ大統領の支持者たちを代表する白人多数派から差別され、出口のない「閉塞感」に駆り立てられる少数派の声を代弁する。(こしかわ・よしあき=明治大学教授・アメリカ文学)
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この記事の中でご紹介した本
2017年12月15日 新聞掲載(第3219号)
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