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2017年12月15日

2017年の収穫 41人へのアンケート

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第2回
佐々木力

イアン・ハッキング『数学はなぜ哲学の問題になるのか』(金子洋之・大西琢朗共訳、森北出版)。クーン以降最大級の哲学者による数学哲学についての秀作の邦訳。二〇一四年六月、ケンブリッジ大学滞在中に原文は読んだ。現代数学の理解のためにも推奨される。が、トロントの原著者の友人によれば、体調がすぐれず、今後このような秀作は望めない状態という。
ヴェルナツキイ『ノースフェーラ――惑星現象としての科学的思考』(梶雅範訳、水声社)。ソ連邦内にあって、もっとも秀逸な自然科学者のひとりであったヴェルナツキイ。標題の意味は「叡知圏」。ライプニッツ的な生命理解とエコロジー思想の在り方を学ぶことができる。訳者の梶氏はロシア科学史のすぐれた研究者であったが、志半ばで昨年亡くなった。友人たちが訳業を完成させた。
池田知久『『老子』その思想を読み尽くす』(講談社学術文庫)。先年、『荘子』の重厚な邦訳・解説を世に送った中国思想史家による挑戦的な『老子』思想への取り組みと訳業。『老子』のテキスト成立に関する知見などは必読。今後、『老子』を論ずるには必見の書となるであろう。(ささき・ちから=中部大学中部高等学術研究所特任教授・科学史・科学哲学)
上村忠男

崇高の修辞学(星野 太)月曜社
崇高の修辞学
星野 太
月曜社
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(1)星野太『崇高の修辞学』(月曜社)。たまたまヘイドン・ホワイトの論文「歴史的解釈の政治――ディシプリンと脱崇高化」(一九八二年)を訳出した直後だったこともあって(『歴史の喩法―ホワイト主要論文集成』作品社、二〇一七年所収)、興味深く読ませてもらった。ただ、残念ながら、ホワイトが主題的に論じていたシラーの「崇高について」(一八〇一年)については、第Ⅱ部でとりあげられているバークやカントとの絡みで言及されていてよかったはずなのに、どういうわけか本書ではひと言も触れられていない。
(2)國分功一郎『中動態の世界―意志と責任の考古学』(医学書院)。フランス語訳をつうじてであるが、スピノザの『ヘブライ語文法綱要』の内容がくわしく紹介されているのがありがたかった。
(3)エトムント・フッサール『内的時間意識の現象学』(谷徹訳、ちくま学芸文庫)。たしか一九七〇年ごろだったか、当時わたしはフッサール晩年の論考『ヨーロッパ的諸科学の危機と超越論的現象学』に集中的に取り組んでいる最中だったが、参考までに『フッサリアーナ』第一〇巻に収録されている本書『内的時間意識の現象学』のドイツ語テクストに目を通してみて、『危機』書の平明な文体とは対照的に、その晦渋さに辟易した記憶がある。一九六七年にみすず書房から出た立松弘孝訳も多少の手助けになったものの、理解がはかどったというにはほど遠い状態だった。それと比べて今回の新訳の水準には隔世の感がある。(うえむら・ただお=東京外国語大学名誉教授・学問論・思想史)
松永正訓

今年もノンフィクションばかり100冊以上読んだ。面白い本やそうでない本もあったのは例年通りだが、今年は好著が多く、収穫と言える本を3冊に絞るのが難しい1年だった。牧久『昭和解体国鉄分割・民営化30年目の真実』(講談社)は、迫力満点の超力作である。タイトルが国鉄解体でなく昭和解体であることに内容のすべてが凝縮されている。読みこなすためにはパワーが必要だが、読後の充実感は半端無い。柳澤健『1984年のUWF』(文藝春秋)は、格闘技の振りを演じたプロレス団体UWFを鋭く分析している。ファンの愛と憎しみの感情を激しく揺さぶる。高梨ゆき子『大学病院の奈落』(講談社)は、群馬大学病院で起きた腹腔鏡下肝切除術による死亡事故の闇を抉った傑作である。医療ジャーナリストとは言え、医療関係者ではない筆者がここまで事件の実相に迫ることができたのは見事と言うほかない。三作とも読み応え十分である。(まつなが・ただし=小児外科医・作家)
橋爪大三郎

大澤真幸『<世界史>の哲学近世篇』(講談社)。著者の連作の新刊だ。相変わらずの密度で読みごたえがある。佳境の近現代に向かってなお期待が高まる。
東浩紀『ゲンロン0観光客の哲学』(ゲンロン)。人を喰った書名だが、なかみは大まじめ。わざとアカデミアの場末に店を構える著者が、王道を歩み時代と格闘を続けていることが誰の目にも明らかになる。この閉塞の正体は何か。ポストモダンはなぜ空振りなのか。同時代の知性の一歩先を行く風圧と戦っている。
竹田青嗣『欲望論』(全2巻・講談社)。構想四○年。まる五年をかけた著者のライフワークの登場だ。第3巻が続くという。フッサールとニーチェとハイデガーの<誤読>のうえに、言語・哲学が人間・社会を捕らえ損ねてきた誤謬の実相を明らかにする。言語は欲望に支えられ、意味と価値を孕む。社会の根底を支える人びとの確信の構造を明らかにする、注目の大作である。(はしづめ・だいさぶろう=社会学者)
外岡秀俊

山室信一『アジアの思想史脈』『アジアびとの風姿』(人文書院)。思想史の碩学が、その到達点を示す二冊を同時刊行した。前者は思想の連鎖が、どうアジアを形造ったかを精緻に読み解く。後者は徳富蘇峰、宮崎滔天、石光真清らを通し、熊本の群像がアジアとどう交差し、歴史を動かしたのかを追う。中身は重厚だが、筆はしなやか。歴史を読む愉しみに時間を忘れた。
澤康臣『グローバル・ジャーナリズム』(岩波新書)。国際調査報道ジャーナリスト連合は昨年の「パナマ文書」に続き、今年も「パラダイス文書」を暴いた。その一員である著者が、世界七十人の記者を取材した。国境を超えた連携の大切さと、報道に携わる記者の志の高さを示す必読の書。
大鹿靖明『東芝の悲劇』(幻冬舎)。巨大企業はなぜ転落したのか。歴代経営陣の内幕に迫る調査報道の力作。どの企業も他人事ではない。(そとおか・ひでとし=作家・ジャーナリスト)
小林章夫

ジョン・ル・カレ『地下道の鳩』(加賀山卓朗訳、早川書房)はスパイ小説の巨匠の手になる回想録。一貫した時間の流れに従って書かれたというよりは、思い出すがままにさまざまな出来事、人との出会いなどを綴ったものだが、まるで優れたコラージュのような味わいがある。詐欺師だった父親の姿など、よくもここまで書いたと思うような出来栄え。ル・カレことディヴィッド・コーンウェルの知られざる世界が眼前に繰り広げられる。
芳賀徹『文明としての徳川日本』(筑摩書房)。やっぱり江戸時代は稀に見る豊かな時代だったとの思いがわき出てくる。江戸文化の粹がたっぷり味わえるのがうれしい。
サマセット・モーム『英国諜報員アシェンデン』(金原瑞人訳、新潮文庫)は、名小説家の腕の冴えを新訳でじっくり楽しめる。思わず苦笑しながら、人間観察の辛辣に膝をうった。モーム人気が回復することを望みたい。(こばやし・あきお=帝京大学教授・英文学)
佐久間文子

編集ども集まれ!(藤野 千夜)双葉社
編集ども集まれ!
藤野 千夜
双葉社
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涸沢純平『遅れ時計の詩人編集工房ノア著者追悼記』(編集工房ノア)。大阪の小書肆社主による、出版を手がけた詩人や物書きの追悼集。日常生活を送りながら表現活動を続けた、彼らの時間の送り方に深い感銘を受けた。未知の人も多いのに忘れがたい印象を残すのは、愛情をこめつつ、一定の距離をとって一人ひとりの肖像を描いているからだと思う。
藤野千夜の自伝的小説『編集ども集まれ!』(双葉社)もまた、過ぎ去った時間を魅力的に描く。元漫画雑誌の編集者で、現在は作家の主人公が、ゆかりの場所を巡り、編集者時代を回想する。漫画好きの主人公にとって職場は楽園のような場所だが、「オーランドー」のように男性から女性に変わることで、楽園を追われるのだ。
オットー・D・トリシャス『トーキョー・レコード』上・下(鈴木廣之・洲之内啓子訳、中公文庫)は、開戦直前の日本に赴任した、ニューヨーク・タイムズ記者の日記。捕虜交換船で帰国した翌年に出た本が70数年後に初めて邦訳された。異邦人の目で戦争までの日本をとらえた貴重な記録である。(さくま・あやこ=文芸ジャーナリスト)
山本貴光

(1)池上俊一監修『原典ルネサンス自然学』(上下巻、名古屋大学出版会)。
(2)ニコラウス・コペルニクス『完訳天球回転論』(高橋憲一訳、みすず書房)
(3)トマス・レヴェンソン『幻の惑星ヴァルカン――アインシュタインはいかにして惑星を破壊したのか』(小林由香利訳、亜紀書房)。
この宇宙や世界は一体どのような仕組みなのか。いまもなお数々の謎をめぐる探究が各方面で続けられている。科学といえば最新知識に目が向きがちだけれど、それに加えてどのようにして現在のようになったのかを見知ることもその理解にはたいそう役に立つ。
というのも、未知への好奇心と理解への渇望を原動力として行われる絶えざる試行錯誤こそが、科学(かつては自然学・自然哲学と呼ばれていた)の営みであるからだ。その結果得られた知識だけを受け取るのは一見効率的でスマートなようだが、その実科学を捉え損ねかねない。
(1)はヨーロッパにおける後の科学的思考の土壌をつくった数々の論考を集めた本。(2)はその成果の最高峰である表題作に、関連文献も併せて訳出した労作。自分の手で地動説の論証を追体験できる。(3)は科学における理論と観測の関係、ものの見方やその変化を、幻の惑星に焦点を当てて見事に描いた科学史の逸品。(やまもと・たかみつ=文筆家・ゲーム作家)
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この記事の中でご紹介した本
2017年12月15日 新聞掲載(第3219号)
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