2017年の収穫 41人へのアンケート|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!
▶メールマガジン登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

読書人紙面掲載 特集
2017年12月15日

2017年の収穫 41人へのアンケート

このエントリーをはてなブックマークに追加
第5回
風間賢二

1『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』マイクル・ビショップ/小野田和子訳(国書刊行会)
2『異形の愛』キャサリン・ダン/柳下毅一郎訳(河出書房新社)
3『ボーリンゲン過去を集める冒険』ウィリアム・マガイアー/高山宏(白水社)
1の原題は、Who Made Stevie Crye?もちろん、Who MadeS tevie Cry?のシャレ(だろう)。『誰がスティーヴィを叫ばせ(泣かせ、わめかせ)たのか?』ということでもある。そのスティーヴィとは、スティーヴン・キングのことである(たぶん)。つまり、本書はモダンホラーのパロディであり、優れたメタフィクションでもある。知る人ぞ知る、この80年代カルト・ホラーの翻訳を慶賀したい。
2は、21年ぶりの復刊。若い人にとっては新刊のようなものだろう。スティーヴン・キングとガルシア・マルケスが合作したような80年代のカルト的なマジックリアリズム長編。このハチャメチャでケシカラン、ぶっ飛んだフリークス小説を甦らせた出版社の心意気に敬服。
3は、20世紀の知の巨人たちの群像劇。圧巻です。世界は人的交流と縁でできている。慧眼の編集者伝、脱領域出版史としても知的好奇心が猛烈に刺激される。(かざま・けんじ=幻想文学研究家・翻訳家)
篠木和久

池谷裕二『パパは脳研究者』(クレヨンハウス)。脳研究者として第一線で活躍しつつ、『進化しすぎた脳』などの一般向け読み物でも才能を発揮する著者が、自分の娘の誕生から4歳までを描いている。子供の成長を脳科学的な視点で捉え直すとこんなにも新鮮なのかと驚き。興味津々で子育てに勤しむイクメン研究者の素顔も微笑ましく、自分の子供が生まれたときにこの本があったなら、と思わせる一冊。
中川毅『人類と気候の10万年史』(講談社)。トランプ大統領のように地球温暖化を否定するのはもはや現代社会のタブーとなっているが、ほんの1万年前まで地球は氷期だったし、産業革命以降の温暖化をはるかに凌ぐ気候変動も人類は経験してきた。我々は現代のこの状況をどう捉えればいいのか、と改めて深く考えさせられる良質な科学啓蒙書。
シンジケート』(沖積舎)。歌人・穂村弘のデビュー作。今年の新刊ではないが、その書籍の存在を知ったときが自分にとっての新刊ということで取り上げたい。読者の想像力も頼りに巧みに世界を構築してゆく短歌の持つ独特の魅力に初めて気づかされた。(ささき・かずひさ=講談社・ブルーバックス編集長)
栗原康

(1)森元斎『アナキズム入門』(ちくま新書)
国家がないと生きてゆけない?税金はらえ?戦争にいけ?できなかったら非国民、ゴミあつかいだ。でもどうだろう。国家ってほんとに必要ですか?はたらけ、はらえ、ひと殺せ?そんなヒマなどありゃしねえ。遊びてえ、遊びてえ、遊びてえ。ムダなことしかできやしないね。オレ、粗大ゴミ!
(2)丹野未雪『あたらしい無職』(タバブックス)
ひとはほんらい無職だ。人類史の九九%は、自然にはえているものをとって食ってきた。仕事がなけりゃ落ちこぼれ?しょんべんたれろ。無職だ、ヒマだ、ヒマ、ヒマ、ヒマ。ヒマさえあれば、なんでもできる。いま、そうおもっているひとが劇的にふえちゃいないか。あたらしいね、野蛮人。こいよ、無職!
(3)シルヴィア・フェデリーチ『キャリバンと魔女』(小田原琳・後藤あゆみ訳、以文社)
労働も家事労働もまっぴらごめん。そこに囲いこめない女たちが魔女とよばれるならば、おいらも魔女になってやる。燃やしてやりてえ、文明社会。遊んでいないのは、生れていないのとおなじことだ。自由にセックスできないのは、生きていないのとおなじことだ。とりみだせ!(くりはら・やすし=アナキズム研究)
笈入建志

小倉ヒラク『発酵文化人類学』(木楽舎)は、世界中の様々な発酵食品を紹介し、化学の視点から微生物を含む生命の営みを捉え直し、ついには発酵を通して人間にとって「美」とは何かを考察。発酵を通して目に見えないもう一つの世界を感じることができるようになります。
佐々木健一『Mr.トルネード藤田哲也世界の空を救った男』(文藝春秋)は謎の墜落の原因を解き明かした気象学者の一生を描く。墜落原因がパイロットの人為的なミスだったと最終報告がまとまりそうなとき、納得が行かない航空会社から藤田に調査の依頼が舞い込みます。仲間と一緒に、真理を解き明かそう!という若々しい気迫と、一途な眼差し、明るい笑顔が素晴らしい。
佐藤正午『月の満ち欠け』(岩波書店)は、究極の恋愛小説にして直木賞受賞作。普段は心のなかにしまってあって、だれにも話さないけれど、いまも忘れられない人。もしあなたの心の中にいるのだったら、ぜひ読んでみてほしいとおもいます。(おいり・けんじ=往来堂書店店主)
藤田直哉

ジェシー・プリンツ『はらわたが煮えくりかえる』(源河亨訳、勁草書房)、津田大介×日比嘉高『ポスト真実」の時代』(祥伝社)、伊藤守『情動の社会学』(青土社)
現代の困難を、今では使い物にならなくなった図式である「左右」「保革」などの枠組みとは異なる捉え方をさせてくれて、ぼくらの認識を更新し、具体的に対処する助けとなる著作を選んだ。理性的な思考ではなく情動に基づいた思考や判断がなされ、デマやフェイクニュースが吹き荒れ、政治的な現実すらも作り出していく現状。おそらく、理性や言語や意識に偏重しすぎた捉え方には限界がきている。身体、神経、脳、メディアなどの観点からこの現在の危機を解釈し、対応するのが急務である。『はらわたが煮えくりかえる』は、哲学の観点から、身体や情動にアプローチする。『「ポスト真実」の時代』は、デマやフェイクニュースが政治に影響している現状がよく分かる。『情動の社会学』は、ネットと情動が結びつきこの社会に何が起きているかを解き明かそうとする。ネット右翼や反知性主義の台頭、真実や事実や論理を軽視する社会それ自体と戦うための武器だ。(ふじた・なおや=SF・文芸評論家)
枡野浩一

『神様がくれたインポ』という実録小説をウェブ連載したとき反響が凄かったのに『愛のことはもう仕方ない』(サイゾー)と改題して書籍化したら売れなかった。こだま『夫のちんぽが入らない』(扶桑社)の大ヒットが私を苦しめるのは、書名で妥協した自分の信念の弱さを見つめざるをえなくなるからだ。こだま氏の本は一生に一冊の、信念の渾身作。
離婚して会えなくなった息子は今年17歳。その事実をもっと「公」の言葉で語るべきだったのではという後悔で私を苦しめるのは、西牟田靖『わが子に会えない離婚後に漂流する父親たち』(PHP研究所)。この密室の問題を丹念な取材で可視化した功績は計り知れない。
歌人20周年を記念しクラウドファンディングで「Tシャツ歌集」を制作、目標額の370%の支援が集まったのに黒字にならなかった私を苦しめるのは西野亮廣『革命のファンファーレ現代のお金と広告』(幻冬舎)。半年早く読みたかったよー。「本と雑談ラジオ」参照。(ますの・こういち=歌人)
小松美彦

松本昭『古代天皇史探訪天皇家の祖先・息長水依比売を追って』(アールズ出版)。学生時代に触れた津田左右吉の言葉「われらが愛すべき天皇」の真意の究明を目指し、国内外の幾多の文献の比較解読を通じて、古代からの天皇の在りようと質的転換を七十年かけて実証的かつ批判的に探究した執念の大著。心髄は、オキナガノミヅヨリヒメ、製鉄技術、浄めの神事である。現今の沖縄問題で開幕し、八百余頁を経て、憲法九条で閉幕している。
轟孝夫『ハイデガー『存在と時間』入門』(講談社現代新書)。『存在と時間』の核心すなわち「存在の解明」の解明に正面から挑んだ労作にして傑作。評者が読んだ『存在と時間』に関する論著のなかで最高のものであり、ハイデガーによる未刊行部分までを実証的に現した第二の『存在と時間』だともいえよう。問題関心を現在に据え、「あとがき」まで含めて実に真摯である。特に「覚悟性」以降の議論から評者はさまざまを教えられ、触発された。
神谷則明『長き沈黙―父が語った悪魔の731部隊』(かもがわ出版)。731部隊の下級隊員であった事実を五十年後に公にした実父の証言内容と生き様を軸に、私達が大切にすべきことを暖かな言葉で綴った。今こそ小学生までが読むべき、後世に遺すべき一書だ。個人的には、マルタを「材料」とも呼んでいたこと、731部隊の医学者野口圭一が戦後に産婦人科医として死産児を犬の餌にした事件を起こしていたこと、これらを初めて知った。(こまつ・よしひこ=科学史・生命倫理学)
明石健五

昨年の本欄に踏襲して、特集などで取り上げられなかった本から三点挙げる。
『松本圭二セレクション』(全九巻、航思社、現在四冊刊行)。快挙(暴挙?)である。二〇〇六年に萩原朔太郎賞を受賞した、詩人・松本圭二さんのアンソロジーが刊行されることは、以前から仄聞していた。これまでに刊行された詩集を新たに編み直して、三冊ぐらいのボリュームになるのではないかと想像していた。それが全九巻(全詩集、全小説、そして批評とエッセイまでをも含む)になろうとは、思いもつかなかった。言葉を紡ぐとは、いかなる行為なのか。そのことを改めて考えさせられる書物である。英断を下した版元の航思社に、喝采を送りたい。この「全集」が編まれるまでの経緯は、『子午線通信』5号(書肆子午線)に掲載された、松本自身のエッセイ「出版残酷物語」に詳しい。是非こちらも一読されたい。
大西美智子『大西巨人と六十五年』(光文社)。二〇一四年三月に亡くなった、作家・大西巨人と暮らした六十五年の日々を、克明に振り返る。著者十八歳の時の偶然の出逢い、新日本文学会時代のこと、そして長男の誕生と成長……『神聖喜劇』の主人公・東堂太郎は凄まじい記憶力の持ち主だった。大西巨人自身も「記憶」の人だった。著者もまた、その系譜を引き継いでいる。圧巻は終章「敢闘」である。亡くなる直前の二週間、常に言葉を交わしながら、夫を看取る。幾度か耳にしたことがあるおふたりの声が、確かに聞こえた気がしたのだった。
瀬戸内寂聴『いのち』(講談社)。こちらも「老い」について考えさせられる一冊(大西さんと瀬戸内寂聴さんの本がつづいているのには、何の他意もない)。ガンとの闘い。病床で頭に浮かぶ過ぎ去りし日々。深い付き合いのあった友たちは、どのように死を迎えたのか。河野多惠子とは、一際親交が深かった。「今月の『新潮』の山田詠美の「学問」って題の小説いいよ。少女のはじめてのオナニー書いたもの、私がいつか書くつもりでいたのよ、詠美にやられちゃった」。そんな電話が、河野からかかってきたという。おそらく八〇歳は越えていたのではないか。まさに作家の業というものを思い知らされる小説。(あかし・けんご=本紙編集長)
1 2 3 4
この記事の中でご紹介した本
2017年12月15日 新聞掲載(第3219号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
読書人紙面掲載 特集のその他の記事
読書人紙面掲載 特集をもっと見る >
文化・サブカル > 読書関連記事
読書の関連記事をもっと見る >