写真家 三木淳と「ライフ」の時代 書評|須田 慎太郎(平凡社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年12月16日

劇的かつ情緒豊かに描く 
愛情を持って語られる三木の幅広い仕事

写真家 三木淳と「ライフ」の時代
著 者:須田 慎太郎
出版社:平凡社
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一般家庭にテレビが本格的に普及していく以前、社会で起きていることを伝達するマスメディアの役割を担っていたのは写真であった。とりわけ、写真とテクストを巧みに組み合わせて誌面上に構成するグラフ雑誌が、ジャーナリズムの中核を担っていた。そうしたグラフ・ジャーナリズムの中でも、最も世界的な影響力を持ち一世を風靡したのが、1936年に創刊されたアメリカのグラフ雑誌『LIFE』である。日本人として初めてこの雑誌の正規カメラマンとして契約し、活躍したのが、三木淳(1919~1992)であった。

須田慎太郎『写真家 三木淳と「ライフ」の時代』は、没後25年を迎える三木の一生を、同時代における社会情勢や家族とのエピソードを交えながら綴った評伝である。本書では、学生時代における名取洋之助、土門拳、木村伊兵衛、亀倉雄策との交流や、『LIFE』と関わるようになった頃の、アンリ・カルティエ=ブレッソン、マーガレット・バーク=ホワイト、ユージン・スミスといった名だたる写真家との恊働が語られていく。また、報道写真家として世界を奔走し、様々な被写体にカメラを向ける一方で、カメラ機器の改良への寄与やニコンのカメラやレンズを愛用する者たちの親善を目的としたニッコール・クラブの設立といった三木のカメラ産業への貢献、あるいは写真教育者として大学の教壇に立ったり、写真美術館の創設に尽力したりした写真教育への関心など、三木の幅広い仕事が愛情を持って語られていく。

『LIFE』を始めとするこの時期のフォト・ジャーナリズムは、ドイツにおけるグラフ・ジャーナリズムの台頭とともに発展したフォト・エッセイという形式を重視していた。日本では組写真と呼ばれており、1930年代初頭に名取洋之助がドイツより移入したとされる。戦中期においてフォト・エッセイや組写真は、国家のイデオロギーを宣伝・広告するための対外・対内プロパガンダの手法として積極的に用いられていた。それは、事前に考案された筋書きに従い取材を行い、撮影された複数枚の写真を時間的、空間的、因果的な隣接性に基づいて組み合わせ、解説記事とともに誌面上にレイアウトを行うことで首尾一貫した物語を紡ぐといった伝達形式である。そこでは、事実を客観的に描写することよりも、劇的かつ情感豊かな物語によって読者を惹き込んでいくことが重視された。戦後50年代に黄金期を迎える『LIFE』は、こうした手法を駆使することで、アメリカの思想や価値観を世界に向けて発信していたのである。

本書もまた、著者がノンフィクション小説であると語るように、事実を素材にして三木を主人公とした劇的な物語を紡ぎだしている。その時々の三木の心情までもを、まるで自身が経験してきたかのように劇的かつ情緒豊かに描き出していく本書の記述は、資料的な実証性や批評的な価値付けよりも、師である三木の写真家としての功績と写真界への貢献を顕彰することに強く動機づけられている。しかしその一方で、日本の写真界の基礎を支えてきた三木についてカメラ産業、写真教育、同時代的な社会情勢を織り交ぜながら記述した本書には、写真史の観点から見て興味深い示唆的なエピソードが随所に散りばめられている。こうしたエピソードを実証的に検証し、既存の日本写真史研究の間隙を補完していく可能性に本書は開かれている。
この記事の中でご紹介した本
写真家 三木淳と「ライフ」の時代/平凡社
写真家 三木淳と「ライフ」の時代
著 者:須田 慎太郎
出版社:平凡社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年12月15日 新聞掲載(第3219号)
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