2017年回顧 俳句 俳人の主体性  作句主体と編集主体の新しい有り様|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

回顧総評
2017年12月25日

2017年回顧 俳句
俳人の主体性 
作句主体と編集主体の新しい有り様

このエントリーをはてなブックマークに追加
この一年、俳人の主体性についていろいろ考えさせられた。たとえば句集を刊行する場合、作品を自選するケースが多いけれど、実際は選句するだけでは終わらない。全体を編年体にするか、四季別にするか、テーマ別にするか、いわゆる章立てから句の配列まで俳人自身が決める場合が多い。つまり俳人は作句主体と編集主体とを兼ねることになる。その背景には自費出版というシステムもあろうが、この一年、いくつかの例外があった。
虎の夜食(中村 安伸)邑書林
虎の夜食
中村 安伸
邑書林
  • オンライン書店で買う
中村安伸の第一句集『虎の夜食』(邑書林)は章題ごとに短文と俳句がならぶ独自の編集スタイルをとる。「あとがき」によれば選句や構成は第三者(家族)が担ったという。すでに中村は某合同句集に自選百句を発表しており、それらを収めながらも全く違う本を作るため、この方法をとったらしい。他者に編集を委ねる、さらなる編集主体とでもいおうか。

かたや福田若之の第一句集『自生地』(東京四季出版)の冒頭近くには、とある合同句集に収録した自句をほぼそのまま書き写す場面がある。いま「場面」といったのは、詞書をふくめて句集自体が本の作成過程を言語学的かつ私小説風に描いているからだ。たとえば版元の編者「北野さん」とのシーン――紙や書体の選定、取材地の散策、抜け落ちた既発表句の指摘など、折にふれて編者が描かれる。福田の多義的な主体は「北野さん」という編集主体と時に併走し、それをも作品化する。
合同句集では『天の川銀河発電所―Born after1968現代俳句ガイドブック』(左右社)があった。五十四人の作句主体に佐藤文香という編集主体が一人果敢に関わる。選句、章立て、読み解き対談等、全てにわたって。
存在者 金子兜太(金子 兜太)藤原書店
存在者 金子兜太
金子 兜太
藤原書店
  • オンライン書店で買う
以下、管見の俳書から。『俳句の背骨』島田牙城(邑書林)、『存在者 金子兜太』黒田杏子編著(藤原書店)、『俳句という他界』関悦史(邑書林)、『鷹女への旅』三宅やよい(創風社出版)、『俳句の変革者たち』青木亮人(NHK出版)、『季語になった京都千年の歳時』井上弘美(KADOKAWA)、『季語は生きている』筑紫磐井(実業公報社)、『言葉の奥へ―岡本眸の俳句』小川美知子(ウエップ)、『季語体系の背景』宮坂静生(岩波書店)。

以下、管見の句集から。〈風船のうちがわに江戸どしゃぶりの〉田島健一(『ただならぬぽ』ふらんす堂)、〈業平はスカイツリーに登高す〉高橋龍(『名都借』高橋人形舎)、〈かたつむり青空を待つ少年と〉松之元陽子(『青鹿』KADOKAWA)、〈青首は首のあたりで淋しがる〉髙野公一(『羽のある亀』山河叢書)、〈遠火事や風の削れる音がする〉渡邉樹音(『琥珀』深夜叢書社)、〈海鳴りに豆撒きの声裏返る〉松井眞資(『カラスの放心』文學の森)、〈夏空をちよつと高枝切り鋏〉櫂未知子(『カムイ』ふらんす堂)、〈割箸を祭の端に捨てにけり〉小野あらた(『毫』ふらんす堂)、〈麦秋や人みな結び目に祈る〉志賀康(『主根鑑』文學の森)、〈塔が建ち古びてめざましい鱗粉〉福田若之(『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』私家版)、〈踊手のいつか真顔となりにけり〉岩淵喜代子(『穀象』ふらんす堂)、〈大根の今はただ横たはるのみ〉上田信治(『リボン』邑書林)。

この記事の中でご紹介した本
虎の夜食/邑書林
虎の夜食
著 者:中村 安伸
出版社:邑書林
以下のオンライン書店でご購入できます
存在者 金子兜太/藤原書店
存在者 金子兜太
著 者:金子 兜太
出版社:藤原書店
以下のオンライン書店でご購入できます
天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック/左右社
天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック
著 者:佐藤 文香
出版社:左右社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年12月22日 新聞掲載(第3220号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
浅沼 璞 氏の関連記事
回顧総評のその他の記事
回顧総評をもっと見る >
文学 > 日本文学 > 俳句関連記事
俳句の関連記事をもっと見る >