2017年回顧 短歌 新人賞の成果の一年  応募制の新人賞から新しい才能が出現した年|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年12月25日

2017年回顧 短歌
新人賞の成果の一年 
応募制の新人賞から新しい才能が出現した年

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応募制の新人賞から新しい才能が出現した年だった。
・革命を夢見たひとの食卓に同性婚のニュースは流れ 小佐野彈
・早朝のバスタブ朝日がつき刺さり音階のようなものが聞こえる 戸田響子

短歌研究新人賞の小佐野彈と次席の戸田響子の作品。小佐野は自らも当事者としてLGBTの主題に挑み、説得力のある三十首を構成してみせた。戸田響子は日常の中の不安定な感覚を巧みに短歌形式で表現しえている。
・わが生まぬ少女薔薇園を駆けゆけりこの世の薔薇の棘鋭からむに 睦月都
・都庁から無料で見られるパノラマは嫉妬するほど綺麗なTOKYO カン・ハンナ

角川短歌賞の睦月都と次席のカン・ハンナ。睦月の幻想的な表現の中に精神の傷痕の疼きが表現されている。カン・ハンナは韓国人としての存在の根拠を視点として、東京の生活の異和を詠っている。

四人とも、短歌で詠わずにはいられない主題を抱え込んでいることが、信頼感を増している。

歌壇賞の大平千賀、佐佐木頼綱もともに個性的な視点を示しており、今年の新人賞からは、期待できる才能が輩出したといえる。

また、中堅歌人対象の実績評価の賞である短歌研究賞は水原紫苑が受賞。
・日本死せりさあれ夏鳥よみがへれ靑人草の繁き叫びに 水原紫苑

受賞後第一作の「夏鳥」の冒頭の作品。「二〇一七年六月十五日共謀罪法案超強行採決」なる詞書が付されている。独自の美学を堅持しつつも、時代から目をそらさない強靭な表現意識に頭が下がる。

短歌研究評論賞の雲嶋聆「黒衣の憂鬱 編集者中井英夫論」も面白い視点の論文で、論中の「短歌の純粋読者の増加」をという提示が話題をよんだ。

短歌専門誌「現代短歌」の編集方針が、きわめて先鋭的になったのも今年の大きな話題だろう。七月号で「特集・テロ等準備罪を詠む」を組み、一人七首ずつ、五十七人の作品を掲載した。ユニークなのは、この特集には、編集部から原稿依頼をした寄稿者のほかに、投稿作品も受け付けるとしたこと。
・デネブ・ベガ・アルタイル在す藍の夜にかつて三権分立ありき 佐藤弓生

特集に寄せた佐藤弓生の一首。水原紫苑と同じく、歌人としての時代への対峙の姿勢に信頼感が湧く。

また同誌の十一月号には中西亮太の評論「誰が桐谷侃三だったのか」を掲載、戦時の短歌史の問題の一つ に挑んだ。これは昭和十五年に、土岐善麿歌集『六月』が反戦的であると非難した桐谷侃三なる人物の正体を中西が新発見資料により、特定したもの。この論文を受けて、翌十二月号で、中西と篠弘(土岐善麿門下で桐谷侃三問題に詳しい)との対談を組んだのもタイムリーな連続企画だった。実はこの中西亮太の評論は、まったくの投稿原稿だったと、私は中西自身から聞いていた。投稿原稿をきちんと評価して採用し、短歌史の問題を解決し、誌面での展開につなげた編集長真野少の編集センスは輝いている。

歌集では短歌研究社から刊行された初回配本の『文庫版塚本邦雄全歌集』第八巻が好企画。ゆまに書房から刊行されている塚本邦雄全集には収録されていない最晩年の二冊の歌集『詩魂玲瓏』と『約翰傳僞書』が完本収録されているほか、全集未収録の小歌集や贈答歌篇等々が集成されている。島内景三の精緻な解説とともに、きわめてお買い得の一巻である。
・地の果てに露店商人紅き実を売りゐるは夢なれどせつなし 森島章人
・遠雷を恐れて帰る、小走りは日本の女のしぐさならむよ 大室ゆらぎ
森島章人歌集『アネモネ・雨滴』(短歌研究社刊)と大室ゆらぎ歌集『夏野』(青磁社刊)より。歌壇的な知名度に関係なく、短歌の高度な表現領域は達成されていることを証明する二人の歌人の歌集。ノイズを遮断して読めば、こういう歌人の存在は、短歌の可能性の大きさを実感させてくれる。
この記事の中でご紹介した本
塚本邦雄全歌集 第八巻/短歌研究社
塚本邦雄全歌集 第八巻
著 者:塚本 邦雄
出版社:短歌研究社
以下のオンライン書店でご購入できます
アネモネ・雨滴―歌集/短歌研究社
アネモネ・雨滴―歌集
著 者:森島 章人
出版社:短歌研究社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年12月22日 新聞掲載(第3220号)
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