2017年回顧 SF 日本SFの新たな核になる作家 小川哲『ゲームの王国』|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年12月26日

2017年回顧 SF
日本SFの新たな核になる作家 小川哲『ゲームの王国』

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ゲームの王国 上(小川 哲)早川書房
ゲームの王国 上
小川 哲
早川書房
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宮内悠介、藤井太洋、柴田勝家ら、近年デビューした新鋭の活躍が目立つ近年の日本SFシーン。二〇一七年にも、これからの日本SFの新たな核になっていきそうな作家が登場した。『ゲームの王国』(早川書房)は、『ユートロニカのこちら側』でハヤカワSFコンテストの大賞を受賞した小川哲のデビュー二作目。内戦、ポル・ポト政権、そして政治腐敗といった重苦しいカンボジアの現代史を背景に、少年少女の半生を描いた骨太の長篇。舞台はやがて近未来に移り、少女は理想を実現するため手段を選ばない政治家となり、少年は医科大学の教授となり脳波を利用したゲームの開発に携わる。カンボジアの現実とマジックリアリズム的な事象とを背景にした、作者の確かな筆力を感じさせる豊穣な物語である。

赤野工作『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』(KADOKAWA)は、小説投稿サイト「カクヨム」連載作品の書籍化で、二十二世紀の語り手が二十一世紀の架空のゲームをレビューするという、スタニスワフ・レムの『完全な真空』のゲーム版にして未来史小説。夢の中でプレイするゲーム、自分自身をシミュレートするゲームなど、個々のゲームレビューのアイディアもさることながら、読み進むに従ってゲームに一生を捧げた老人のプロフィールが徐々に明らかになっていく構成も巧い。圧倒的な物量とゲーム愛に感服。
ベテラン勢も、若々しい力作を精力的に発表して気を吐いている。山田正紀『ここから先は何もない』(河出書房新社)は、「日本の無人探査機が小惑星から持ち帰ったのは、四~五万年前のものと推測されるホモサピエンスの化石人骨だった」という謎から始まる、ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』にオマージュを捧げた壮大なSFミステリ。身近な日常風景から一気に世界が広がっていく酩酊感はまさにSFの醍醐味。神林長平『オーバーロードの街』(朝日新聞出版)は、介護用のパワーローダーが普及し、貧富の格差がますます拡大した近未来の物語。世界中でパワーローダーによる無差別殺人が続発する中、世界同時多発でネット環境が破壊され、経済システムは崩壊に至る。人と人ならざるものの関係に母娘の愛憎が交錯する、黙示録的な作品だ。

また、日本SFの歴史を振り返る企画が多かったのも今年の特徴。二〇一七年は、SF同人誌〈宇宙塵〉が創刊され、同誌から星新一が作家デビューを果たした一九五七年から六〇周年にあたる。これを記念して、早川書房からは『日本SF傑作選』が文庫版で刊行開始された。ボリュームたっぷりの各巻に収録されているのは筒井康隆、小松左京、眉村卓、平井和正、光瀬龍、半村良と、いずれも日本SF第一世代の巨匠たち。第一期は六巻で終了だが、続巻を期待したい。これとは別に、『筒井康隆コレクション』(出版芸術社)も第七巻『朝のガスパール』で完結している。さらに、明治を舞台にした幻想SFを集成した『横田順彌明治小説コレクション』(柏書房)も刊行開始。これらの編者はいずれも日下三蔵。日下は日本SFやミステリの埋もれた名作の復刊企画の大半に関わっている、日本エンタテインメント再発見の功労者だ。

続いて海外作品に目を向けたい。海外で多数の賞を総ナメにしたキム・スタンリー・ロビンスンの火星三部作の完結編『ブルー・マーズ』(創元SF文庫)が、前巻から実に十五年ぶりに登場。火星植民から内戦の勃発、そして地球からの独立へと至る壮大な物語を正面から精緻に描ききった火星SFの金字塔である。

エイミー・カウフマン、ジェイ・クリストフ『イルミナエ・ファイル』(早川書房)を普通の小説だと思って読み始めると戸惑うことだろう。電話帳のような分厚さの横書きで、図版やタイポグラフィも満載。内容もメールや文書ファイルの羅列で、ストーリーは読者の側が補完していく必要があるのだ。しかしこれもまたSFのひとつの形。変わった小説が読みたい方には一読をお勧めしたい。
最後に、立川ゆかり『夢をのみ―日本SFの金字塔・光瀬龍』(ツーワンライフ)を紹介しておきたい。今なお日本SFオールタイムベストの呼び声が高い『百億の昼と千億の夜』など、東洋的無常観に満ちたSF作品で知られる作者の評伝。創作の原点に迫るとともに、作家、教師、家庭人といくつもの顔を持っていた作者の、家族への深い愛情が感じられる力作である。
この記事の中でご紹介した本
ゲームの王国 下/早川書房
ゲームの王国 下
著 者:小川 哲
出版社:早川書房
以下のオンライン書店でご購入できます
ゲームの王国 上/早川書房
ゲームの王国 上
著 者:小川 哲
出版社:早川書房
以下のオンライン書店でご購入できます
ここから先は何もない/河出書房新社
ここから先は何もない
著 者:山田 正紀
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年12月22日 新聞掲載(第3220号)
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