2017年回顧 時代小説 幕末維新とは何かを問う力作 幕末のもう一つの国家ビジョンを示してみせる|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年12月26日

2017年回顧 時代小説
幕末維新とは何かを問う力作 幕末のもう一つの国家ビジョンを示してみせる

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西郷どん! 並製版 上(林 真理子)KADOKAWA
西郷どん! 並製版 上
林 真理子
KADOKAWA
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二〇一八年の大河ドラマが西郷隆盛を主人公にした『西郷どん』に決まったというよりも、来年が明治維新一五〇年にあたることから、多くの作家がそれに向けて準備をしていたのだろう。特に年末になって、幕末維新とは何かを問う力作が相次いで刊行された。

大河ドラマの原作に選ばれた林真理子『西郷どん!』(KADOKAWA)は、入門書に最適。

大獄 西郷青嵐賦(葉室 麟)文藝春秋
大獄 西郷青嵐賦
葉室 麟
文藝春秋
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葉室麟『大獄 西郷青嵐賦』(文藝春秋)は島津斉彬に見出された若き日の西郷を、同じく葉室の『天翔ける』(KADOKAWA)は、挙国一致の体制を作ろうとした松平春嶽を主人公にしている。伊東潤『西郷の首』(KADOKAWA)は二人の加賀藩士を、佐藤賢一『遺訓』(新潮社)は庄内藩と西郷の知られざる接点を、奥山景布子『葵の残葉』(文藝春秋)は徳川の分家に生まれた四兄弟を軸に、幕末維新史を読み替えていた。秋山香乃『龍が哭く』(PHP研究所)は、河井継之助を高圧的な薩長に抗った男としている。近代日本は、競争原理を導入し経済効率を優先することで発展してきたが、これらの作品は、幕末に存在したもう一つの国家ビジョンを示すことで、このまま古いシステムを続けるのか、制度の見直しを行うのかを問い掛けており、考えさせられる。
二・二六事件を斬新な角度で切り取った植松三十里『雪つもりし朝 二・二六の人々』(KADOKAWA)、五・一五事件の時、来日中のチャップリンの暗殺計画があった秘話をベースにした土橋章宏『チャップリン暗殺指令』(文藝春秋)、日本統治下のビルマの山村で殺人事件が起こる古処誠二『いくさの底』(KADOKAWA)、沖縄戦から沖縄の本土復帰までの歴史を、沖縄からボリビアへ渡った移民の視点で描く池上永一『ヒストリア』(KADOKAWA)は、現代と地続きの昭和史を描いており、時代の変わり目に立つ現状に警鐘を鳴らしている。敵性文化のジャズに熱中するナチスドイツの若者を描いた佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』(KADOKAWA)は、国を愛する意味を問うテーマが重い。

信長嫌い(天野 純希)新潮社
信長嫌い
天野 純希
新潮社
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戦国ものでは、『海道の修羅』(KADOKAWA)、『龍の右目 伊達成実伝』(角川春樹事務所)の吉川永青、『燕雀の夢』(KADOKAWA)、『信長嫌い』(新潮社)、『有楽斎の戦』(講談社)、『北天に楽土あり 最上義光伝』(徳間書店』の天野純希、『でれすけ』(徳間書店)、『最低の軍師』(祥伝社文庫)の簑輪諒、『駒姫 三条河原異聞』(新潮社)、『暗殺者、野風』(KADOKAWA)の武内涼と、中堅若手の量産が目についた。戦国ものが得意な矢野隆は、戦国ものは『戦始末』(講談社)だけだが、別の時代では『鬼神』(中央公論新社)、『山よ奔れ』(光文社)を刊行している。やはり多彩な時代を描いている木下昌輝も、ダークな『敵の名は、宮本武蔵』(KADOKAWA)と明朗な『秀吉の活』(幻冬舎)というタイプの違う作品を発表した。

ベテランも、最上義光を描く高橋義夫『さむらい道』(中央公論新社)、徳川家康の国造りに焦点を当てた岩井三四二『家康の遠き道』(光文社)、大友宗麟を理想国家を造ろうとした武将とした安部龍太郎『宗麟の海』(NHK出版)、キリシタンを軸に戦国から江戸初期までを追った帚木蓬生『守教』(新潮社)、武将の初陣を描く宮本昌孝の連作集『武者始め』(祥伝社)など、それぞれの歴史観を導入した重厚な作品で気を吐いていた。

梶よう子『北斎まんだら』(講談社)、谷津矢車『おもちゃ絵芳藤』(文藝春秋)、梓澤要『画狂其一』(NHK出版)、柳広司『風神雷神』(講談社)は、近年人気が高い絵師もので、日本の伝統文化の大きさに気付かせてくれるだろう。

静かなブームが続く古代史ものも堅調で、梓澤要『万葉恋づくし』(新潮社)、周防柳『蘇我の娘の古事記』(角川春樹事務所)など日本の原点に迫る力作が刊行された。中でも、天然痘の流行を背景に、外国人差別が起こるメカニズムに迫った澤田瞳子『火定』(PHP研究所)は圧巻。澤田は平安ものの『腐れ梅』(集英社)で新境地を開いたのも忘れがたい。平安ものでは、諸田玲子『今ひとたびの、和泉式部』(集英社)も印象に残っている。

新人では、泉ゆたか『お師匠さま、整いました!』(講談社)、佐藤巖太郎『会津執権の栄誉』(文藝春秋)、天野行人『花天の力士 天下分け目の相撲合戦』(朝日新聞出版)、戸南浩平『木足の猿』(光文社)、滝沢志郎『明治乙女物語』(文藝春秋)、武川佑『虎の牙』(講談社)、日野真人『殺生関白の蜘蛛』(ハヤカワ文庫)などがデビュー。

この世の春 上(宮部 みゆき)新潮社
この世の春 上
宮部 みゆき
新潮社
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『この世の春』(新潮社)は、デビュー三〇周年を迎えた宮部みゆきの集大成的な大作。森村誠一『最後の密命』(講談社)で〈悪道〉シリーズが、逢坂剛『奔流恐るるにたらず』(講談社)で〈重蔵始末〉シリーズが完結したのも大きなトピックとなった。

この記事の中でご紹介した本
2017年12月22日 新聞掲載(第3220号)
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