2017年回顧 女性学 女性が置かれている現状  グローバル化の進行、格差の拡大、ネオリベの相互関係を無視できない|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年12月27日

2017年回顧 女性学
女性が置かれている現状 
グローバル化の進行、格差の拡大、ネオリベの相互関係を無視できない

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いま日本社会で女性が置かれている現状について考えようとするとき、九〇年代以降のグローバル化の進行と、格差の拡大、そしてネオリベラリズム、これら相互がどういう関係にあるかを含めて、無視することはできない。その意味では、正面からフェミニズムについて論じているわけではないが、ウェンディ・ブラウンの『いかにして民主主義は失われていくのか―新自由主義の見えざる攻撃』(中井亜佐子訳、みすず書房)は間違いなく今年一番の収穫だった。

ブラウンは新自由主義をマルクス主義的な格差の問題というよりは、政治を含むすべてを経済の言語に置き換えていく実践であるととらえる。ホモ・ポリティクスは間違いなくジェンダー化されている(一九八八年に書かれたキャロル・ぺイトマンの『社会契約と性契約―近代国家はいかに成立したのか』(中村敏子訳、岩波書店)の、待望の翻訳も今年、出版された。有難いことである)。それでは、ホモ・エコノミクスはどうだろうか。

「社会などというものはありません。あるのは個々の男女と、家族です」といったイギリスの首相マーガレット・サッチャーも、「わたしたちの社会の究極の作業単位は家族であり、個人ではない」というミルトン・フリードマンも、家族と個人のあいだで揺らいでおり、どちらが正当な分析単位であるのかという問いの前で、宙づりにされている。そこで女性たちに与えられた選択肢はふたつある。ネオリベ規範に振る舞いを合わせてホモ・エコノミクスとなるか、フェミナ・ドミニカとしてあらゆる人的資本(子ども、成人、障碍者、老人)のケアを行い、社会の不可視のインフラであり続けるのか。

しかし問題は、これら古典的な選択肢の先にある。ジェンダー的従属化は、ネオリベによって強化されたとともに、原理的に改変されたとブラウンは主張する。公共財の民営化によって、女性は自己責任を担えない者たちの責任を背負い込まされるという意味で、家族主義は、ネオリベの本質的な必要条件である。ケア役割のおかげで女性の稼ぎは低いが、それは「先天的な能力」の差異によって説明される。人的資本の概念によって、複雑で持続するジェンダー格差を性的差異のせいであるとみなされるが、それはネオリベの結果でもある。貧困に陥ったシングルマザーは、ネオリベ的主体になるプロジェクトの失敗者としてみなされ、それでいてケア労働の供給者であり、また自身や世帯の唯一の収入源でもあらねばならないという「新しいかたちのジェンダー的従属化」を体現しているのである。

ネオリベという文脈では、河野真太郎の『戦う姫、働く少女』(堀之内出版)も実に面白かった。『アナと雪の女王』、『千と千尋の神隠し』のような映画から、『逃げるは恥だが役に立つ』といったドラマまでのポピュラーカルチャーが、分析の対象となっている。河野は第二波フェミニズムによって女性がさまざまな権利を獲得したとされる状況を、ポストフェミニズムと定義するが、それはネオリベの成果でもあったともみなす。そしてフェミニズムから社会変革を取り除き「個人の立身出世」を代入すればポストフェミニズム「状況」ができあがるのだという。この状況下では「労働」は変質し、女性たちの「情動労働」こそが搾取され、グローバル資本主義に貢献している。「戦う姫」はいまや「働く少女」でもある。フェミニズムとネオリベの関係が、具体的なテキスト分析を通じて浮かび上がってくる秀逸な本であった。
大嶽秀夫の『フェミニストたちの政治史―参政権、リブ、平等法』(東京大学出版会)では、フェミニズムは自律・自由を求めた出発点からネオリベと通底しており、一九七〇年代以降はより明示的に「機会の平等」というタームでネオリベ的傾向を示していると主張されている。男女雇用機会均等法などの政治的な権利を獲得することはネオリベなのか。フェミニズムの成果と「ネオリベ的主体を生産していくプロジェクト」はどう峻別されるのか。
『裸足で逃げる―沖縄の夜の街の少女たち』(上間陽子、太田出版)、『漂流女子―にんしんSOS東京の相談現場から』(中島かおり、朝日新書)に描かれる、貧困な環境のなかで、若年の妊娠、中絶、もしくは出産・離婚に追い立てられていく少女たちはどのような制度を求めているのか、考えさせられる。
この記事の中でご紹介した本
いかにして民主主義は失われていくのか  新自由主義の見えざる攻撃/みすず書房
いかにして民主主義は失われていくのか  新自由主義の見えざる攻撃
著 者:ウェンディ・ブラウン
出版社:みすず書房
以下のオンライン書店でご購入できます
裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち/太田出版
裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち
著 者:上間 陽子
出版社:太田出版
以下のオンライン書店でご購入できます
戦う姫、働く少女/堀之内出版
戦う姫、働く少女
著 者:河野 真太郎
出版社:堀之内出版
以下のオンライン書店でご購入できます
フェミニストたちの政治史/東京大学出版会
フェミニストたちの政治史
著 者:大嶽 秀夫
出版社:東京大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年12月22日 新聞掲載(第3220号)
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