2017年回顧 マスコミ 吹き荒れる「フェイクニュース」  ねつ造、欺きがビジネスとして成立する社会|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年12月27日

2017年回顧 マスコミ
吹き荒れる「フェイクニュース」 
ねつ造、欺きがビジネスとして成立する社会

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昨年、小欄の冒頭で触れた「ファースト」はさらに、フランス、ドイツ、オーストリアのみならず欧州、オーストラリアでも広がった一年である。その流れの中で「フェイク(偽)ニュース」が吹き荒れている。

藤代裕之『ネットメディア覇権戦争』(光文社新書)が、それは「突然に生まれたわけではなく、ビジネスとジャーナリズムの間で揺れ動くビジネスパーソンの戦いの歴史であり、現在進行形の物語である」(はじめにより)と指摘する。

メディアの誤報は言うまでもなく、信頼性の失墜につながるにしても、ネット空間の広がりは否応なしに素人の発信機能を広げ、ねつ造、欺きの情報がビジネスとして成立する社会に入り込んでいる。

他方、そうしたネットニュースも大きく信頼性が揺らいでいると、日経新聞記者出身の松林薫『「ポスト真実」時代のネットニュースの読み方』(晶文社)が解明のヒントを与えてくれる。同じく朝日新聞のIT専門記者経験のある平和博『信じてはいけない』(朝日新書)も、偏向する利用者(読者でなく、ユーザー)に迎合するあり方は民主主義の崩壊を招くと警鐘を鳴らす。

二〇世紀末からこうしたメディア環境の激変が始まり、グローバリズムの進展が必ずしも「バラ色の未来」を生むものではないことが眼前に翻っている。

エドワード・スノーデン他『スノーデン 日本への警告』(集英社新書)にあるように、監視社会化が進む一方、グローバル社会では国際的な調査報道組織が誕生しており、パナマ文書やパラダイス文書事件で活躍している。その一人である澤康臣の『グローバル・ジャーナリズム』(岩波新書)が苦悩を詳述している。加えて花田達朗・別府美奈子・大塚一美・デービッド・E・カプラン『調査報道 ジャーナリズムの挑戦』(旬報社)は市民社会と国際支援戦略の連携、記者養成教育の再構築、「世界で共有され、共鳴しあう専門知」(あとがき、別府)を訴える。

グローバルなニュースの潮流に大きな影響を与えているひとつに通信社がある。世界の通信社研究会編『挑戦する世界の通信社』(新聞通信調査会)はコンパクトに今日的な通信社の動向を、また岩間優希『PANA通信社と戦後日本』(人文書院)は日本を取り巻いた情報環境の一幕を、同社に関わった多くのアジア人ジャーナリストのライフヒストリーから描いている。

芹川洋一×佐々木毅『政治を動かすメディア』(東京大学出版会)は民主政の変質(可能性)にメディア自体があるということを否定しないものの、メディアが蔓延するナショナリズムやポピュリズムの防波堤になりうるかというと、既存勢力としてメディアが見られている現代社会では厳しい批判にさらされている。

それでもなお、ジャーナリズム活動に将来身を置きたい読者には、次の四冊を薦める。チューリップテレビ取材班『富山市議はなぜ14人も辞めたのか』(岩波書店)は政務活動費の闇を暴く記者たちが真実を追う姿を知ることができる。生涯一ジャーナリストであらんとする滝鼻卓雄『記者と権力』(早川書房)が言う、合法かそうでないか、正義か正義でないか、公正か不公正か。その境界線を見極める努力を惜しまず、メディアが権力と対峙することは何をもたらすのかを考えてもらいたい。

ほぼ四半世紀、NHK「クローズアップ現代」のキャスターを務めた国谷裕子が『キャスターという仕事』(岩波新書)を、そして日本のニュースを変えたとも言われる久米宏も『久米宏です。』(世界文化社)を刊行した。それまでにないニュース番組を作り上げたことや偶然のようにキャスターという仕事についたこと、そして常に言葉の力を信じることなど、二人に共通するものが多いことに気づかされる。

「ポスト・トゥールス」などの言葉が飛び交う今日、サイバースペース上でのジャーナリズムが揺らいでいる。であっても、そこでのやりとりは社会的コミュニケーションの変化の過程に過ぎないとすれば、山腰修三編著『入門メディア・コミュニケーション』(慶應義塾大学出版会)といった基礎知識を習得できる本を読むことにより、適応力がつくユーザーの出現を期待したい。

最後に、ニコラス・G・カー、増子久美+菅野楽章訳『ウェブに夢見るバカ』(青土社)を紹介する。評価が二分するような書物かもしれないが、この十年のめまぐるしいIT社会を再考するきっかけになる。原題「薄気味悪いユートピア」(訳者)が何を意味するか考えてもいいだろう。
この記事の中でご紹介した本
スノーデン 日本への警告/集英社新書
スノーデン 日本への警告
著 者:エドワード・スノーデン
出版社:集英社新書
以下のオンライン書店でご購入できます
キャスターという仕事/岩波書店
キャスターという仕事
著 者:国谷 裕子
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
ネットメディア覇権戦争   偽ニュースはなぜ生まれたか/光文社
ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか
著 者:藤代 裕之
出版社:光文社
以下のオンライン書店でご購入できます
PANA通信社と戦後日本  汎アジア・メディアを創ったジャーナリストたち/人文書院
PANA通信社と戦後日本 汎アジア・メディアを創ったジャーナリストたち
著 者:岩間 優希
出版社:人文書院
以下のオンライン書店でご購入できます
政治を動かすメディア/東京大学出版会
政治を動かすメディア
著 者:芹川 洋一、佐々木 毅
出版社:東京大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年12月22日 新聞掲載(第3220号)
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