2017年回顧 経済学 資本主義の「変革」と経済思想  『資本論』150年とロシア革命100年|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

回顧総評
2017年12月28日

2017年回顧 経済学
資本主義の「変革」と経済思想 
『資本論』150年とロシア革命100年

このエントリーをはてなブックマークに追加
本年2017年1月のスイスのダボス会議では、「グローバル化の功罪」が注目の議題になったようだ。所得と富の格差の拡大、気候変動、社会の両極化や人口の高齢化など、今後の世界経済の動向を左右するグローバルリスクも積極的に論じられた。「グローバリゼーション」に「適訳」がないこと、「グローバル化」やそれを推進してきた「新自由主義的資本主義」とわれわれはいかに対峙すべきであろうか。

ベストセラー『資本主義の終焉と歴史の危機』から3年、新たな洞察と展望を集約した水野和夫『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(集英社新書)は、「反グローバル化」ではなく世界経済における「脱グローバル化」に着眼し、「より遠く、より速く、より合理的に」を掲げた近代理念から「より近く、よりゆっくり、より寛容に」へと移行しうるシナリオを、経済学にとどまらない人文社会・歴史学・哲学など幅広い学術文献と該博な知識をふまえ実直に描き出す。元来の問題意識は、「金利ゼロ=利潤率ゼロの時代に成長を求めると、いったい人間の幸福とは何なのかがわからない、こうした資本主義の矛盾に直面することになるのです」。「収集」とはその含みが異なる「蒐集」概念から、経済と美術を架橋させる対談である水野和夫・山本豊津『コレクションと資本主義』(角川新書)も新鮮な視点と驚きを与えてくれる。

中野剛志・柴山桂太『グローバリズム その先の悲劇に備えよ』(集英社新書)も、鮮烈な時代感覚から縦横無尽に繰り広げられる含蓄に富む対談だ。冒頭で中野氏は「思想の座標軸を設定し直そう」と提言し、世界のエリートたちがグローバリズムという座標軸に執着し思考停止していることに警告を発する。そして、先の水野氏と響き合う発言をしている。「今起きているのは資本主義の問題すらも超えて、近代そのものの問題なのかもしれない」。柴山氏によれば、「はっきりしているのは、過去30年以上続いてきたグローバル化と新自由主義の時代は、これまでのようには続かないということです」。中野氏は昨年の大著『富国と強兵』から『経済と国民』(朝日新書)を本年上梓し、スミス・リカードの古典派経済学を体系的に批判したドイツの経済学者フリードリヒ・リストの学説を中心に、経済自由主義を強固に支えるイデオロギーへの揺さぶりをあらためて推進している。経済自由主義や主流派経済学への批判だけでも「命懸け」。両氏の主張が説得的であるのは、原理と事実への深い理解はもちろん、社会「思想」史的な文脈に精通していることだ。

成長史観への囚われをいかに把握し、脱却していけるか。そうした難題に挑んだのが佐伯啓思『経済成長主義への訣別』(新潮選書)とダニエル・コーエン『経済成長という呪い』(東洋経済新報社)。成長資本主義モデルを疑問視する、『善と悪の経済学』(2015年邦訳)で知られるチェコのトーマス・セドラチェクやノーベル賞学者スティグリッツらを対談者とし、「欲望」や「貨幣」というキー概念から現代資本主義の実態と未来を大胆に語り合う(安田洋祐氏がナビゲーターを務めた)『欲望の資本主義』(東洋経済新報社)も推奨作。「ルールが変わる時」を副題とする本書は、資本主義を支えるルールのありかた、その変革可能性を射程におさめ、これからの社会経済システムの行方を探る。本書を通じてわれわれはスミスやケインズ、シュンペーターの洞察に遭遇する。

本年はマルクス『資本論』150年、ロシア革命100年。翌年2018年はマルクス生誕200年であり、その学術的意義がさらに回顧・展望されていくであろう。新自由主義的グローバル資本主義への系統的批判と社会主義をふくむ多元的なオルタナティブを、サブプライム金融恐慌やピケティの格差再拡大論からベーシックインカム論・地域通貨論の可能性にまで広く説き及ぶ伊藤誠『資本主義の限界とオルタナティブ』(岩波書店)。デヴィッド・ハーヴェイ『資本主義の終焉』(作品社)との併読も有益だ。主流派の新古典派(マクロ)経済学の構造的限界を詳述した鍋島直樹『ポスト・ケインズ派経済学』(名古屋大学出版会)も、非マルクス派からの貢献として見落とせない。昨年も言及したが、故宇沢弘文『経済と人間の旅』(2014年)が本年文庫化され、氏の多面的思想を明快に知りうる『人間の経済』(新潮新書)も刊行された。世界的経済学者の遺した深遠なメッセージは今後も汲み取られていく。

あらためて日本社会はどうなるのか。河合雅司『未来の年表』とNHKスペシャル取材班『縮小ニッポンの衝撃』(講談社現代新書)は、その驚くべきリアリティとトレンドを克明にあぶり出した。スミス『国富論』を「貧困論」として現代的に読み直す井上義朗『「新しい働き方」の経済学』(現代書館)も示唆に富む。不透明さを増す世界経済のなかで、日本社会の現状と未来、そしてオルタナティブを広く深く考え直していくためにも、経済学の原理と思想が強力な武器となることをわれわれは明確に再認識しなければならない。「変革」のための潜勢力も担っている。昨年2016年同様、多産な学術成果の年と総括できよう。

この記事の中でご紹介した本
閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済/集英社
閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済
著 者:水野 和夫
出版社:集英社
以下のオンライン書店でご購入できます
グローバリズム その先の悲劇に備えよ/集英社
グローバリズム その先の悲劇に備えよ
著 者:中野 剛志、柴山 桂太
出版社:集英社
以下のオンライン書店でご購入できます
経済成長主義への訣別/新潮社
経済成長主義への訣別
著 者:佐伯 啓思
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
資本主義の限界とオルタナティブ/岩波書店
資本主義の限界とオルタナティブ
著 者:伊藤 誠
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
未来の年表 人口減少日本でこれから起きること/講談社
未来の年表 人口減少日本でこれから起きること
著 者:河合 雅司
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年12月22日 新聞掲載(第3220号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
塚本 恭章 氏の関連記事
回顧総評のその他の記事
回顧総評をもっと見る >
学問・人文 > 経済学関連記事
経済学の関連記事をもっと見る >