2017年回顧 政治学 アーレントに注目が集まる  時代の不透明さとそれへの危機感を背景に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年12月28日

2017年回顧 政治学
アーレントに注目が集まる 
時代の不透明さとそれへの危機感を背景に

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ドナルド・トランプのアメリカ合衆国大統領就任式をもって幕を開けた二〇一七年は、政治的に見れば世界規模での先行き不透明さがいや増していったようにみえる。いわゆる「トランプ現象」にみられるような、反動的な思潮がある種の時代精神となっていることは、もはや否定しがたいだろう。そうしたなかで、昨年の大統領選挙の真っただ中に本国アメリカで出版されたマーク・リラ『難破する精神――世界はなぜ反動化するのか』(NTT出版)が、早くも本年の八月に翻訳出版されたことは壮挙といってよい。トランプという特異なパーソナリティや、彼の政治的大成功を許した現代アメリカの社会状況に関するジャーナリスティックな報告は、本年枚挙に暇がないほど大量に出版された。本書もある意味ではそうした流れに棹差すものではあるのだが、類書とは異なりこうした現象の背景にあると目される反動思想の系譜を解き明かすことをリラは目指している。現代の危機を考えるにあたって、「保守」とは異なる「反動」という切り口から問題を思考することの重要性は、たとえ本書の行っているすべての分析に説得されるわけではないとしても、最大限に強調されてしかるべきだろう。

時代の不透明さとそれへの危機感は、アーレント・ブームにも表れているように思われる。アーレントの思想への注目自体はここ数年継続しているけれども、本年は彼女の著書『全体主義の起源』(全三巻、みすず書房)や『エルサレムのアイヒマン』(みすず書房)が新版として発売され、また『アーレントと二〇世紀の経験』(川崎修・萩原能久・出岡直也編、慶応義塾大学出版会)などの研究書が複数出版され、NHKの番組でも『全体主義の起源』が取り上げられるなど、これまで以上に彼女の思想が大きな注目を集めているようにもみえる。こうした注目の背景には、現代社会を覆いつくしている漠とした不安を見つめ、思考するための鍵を彼女の思想を通して得ようとする切実な希求が存在しているのかもしれない。

角度を変えてみると、こうした不安感の亢進や反動思想の隆盛は、リベラリズムあるいはリベラルの退潮と密接に関係しているといえる。今秋の衆議院議員選挙の結果を見れば明らかなように、こうした傾向は日本においても無縁のものではない。本年出版されたリベラリズム関係の著作の中では、田中将人『ロールズの政治哲学』(風行社)が目を引いた。ともすれば分析的政治哲学という現代リベラリズムの主潮流の源流ともみなされがちなロールズの政治哲学を、「差異の神義論―正義論」として整理・分析した同書は、今後のロールズ政治哲学にかかわる議論のみならず、現代リベラリズムの思想的位置づけを再考するにあたって、不可欠の参照点となることだろう。

最後に、NHKスペシャル『人工知能の「最適解」と人間の選択』(NHK出版新書)の第四章「人工知能は世界を救うか――AI政治家の可能性」を取り上げたい。リラは、レオ・シュトラウスに倣って、西洋形而上学の伝統における主要な対立点を啓示と理性の対立という神学―政治問題にみている。啓示は理性の外部であり、あるいは理性を根拠づけるものでもありうる。人間の理性によっては把握できない「最適解」を「AI政治家」が提示しうるならば、それはまた、「反動」思想とは異なるかたちであれ、再び私たちを神学―政治問題へと差し向けることになるのかもしれない。
この記事の中でご紹介した本
難破する精神 世界はなぜ反動化するのか/エヌティティ出版
難破する精神 世界はなぜ反動化するのか
著 者:マーク・リラ
出版社:エヌティティ出版
以下のオンライン書店でご購入できます
ロールズの政治哲学/風行社
ロールズの政治哲学
著 者:田中 将人
出版社:風行社
以下のオンライン書店でご購入できます
人工知能の「最適解」と人間の選択/NHK出版
人工知能の「最適解」と人間の選択
編 集:NHKスペシャル取材班
出版社:NHK出版
以下のオンライン書店でご購入できます
アーレントと二〇世紀の経験/慶應義塾大学出版会
アーレントと二〇世紀の経験
著 者:川崎 修
編集者:萩原 能久
出版社:慶應義塾大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年12月22日 新聞掲載(第3220号)
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