グッドバイ / ケラリーノ・サンドロヴィッチ(白水社)ケラリーノ・サンドロヴィッチ著『グッドバイ』 立命館大学 片山 紀香|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年12月27日

ケラリーノ・サンドロヴィッチ著『グッドバイ』
立命館大学 片山 紀香

グッドバイ
著 者:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出版社:白水社
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 未完だった太宰治の遺作の続きを描いた戯曲、それが『グッドバイ』ある。

太宰治の小説『グッドバイ』は、当時新聞連載を予定し第13回まで書かれていた。そんな中、彼は入水自殺をしてしまい、物語は永遠に中断されたままになってしまう。そのため時代背景や物語の趣旨、主人公とヒロインの設定は決められていたが、展開や結末は誰にもわからないままなのだ。

しかし時代を経て、2015年にこの作品は演劇という形で完成し、各地で公演が行われた。戯曲『グッドバイ』の筆者であり、脚本・演出を務めたのは、現在劇作家・演出家・脚本家として幅広く活躍されているケラリーノ・サンドロヴィッチさんだ。

私は太宰治というと人間の脆さや絶望を描いている印象を持っている。しかし実際に太宰治の小説『グッドバイ』を読んでみると、その小説にも死を前にして書かれた内容とは思えないほど、コメディの要素がたくさん詰まっていた。

この戯曲は、そのような小説の要素に加え、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんによるテンポ良く繰り広げられる会話、至るところにちりばめられているユーモア、そして意外な恋模様によって、さらに痛快なコメディとなっている。

物語の舞台は昭和23年の戦後間もない日本。雑誌編集長である田島周二は、闇商売で荒稼ぎし、妻と娘がいながら多くの愛人がいた。ある日、彼は妻と娘のところへ戻るため、これまでの闇商売や愛人たちとの関係を自ら断ち、人生をやり直すことを決心する。そこで彼は、妻と偽った絶世の美女・キヌ子をつれていき、愛人たちに別れを告げようと企てる。

田島は肝心なときに意気地がなく、お酒や女性関係・お金にだらしないどうしようもない男である。一方、共に作戦を実行していくキヌ子は、黙っていれば絶世の美女ではあるが、お金にがめつい性格で怪力・大食いという面を持っていた。そんな2人は互いにうんざりしながらも、別れの行進をスタートさせる。こうして順に別れを告げにいくのかと思いきや、後半部分には予想もできなった事態の発生にともない、登場人物たちの心境や彼らの関係性は大きく変わっていく。

この戯曲には、ところどころに太宰治自身を思わせる表現や、彼の自殺を連想させる台詞がいくつかある。「グッドバイ」という別れの挨拶を意味する題名と太宰治の自殺には、意図があったのかはわからないが、関連があるように思う。そういった点も含めて、この戯曲は「グッドバイ」に奔走し、あるいは「グッドバイ」に巻き込まれて、次第に変化していく人間模様を純粋に楽しむことができる。決してこれという教訓を押しつけるわけでもなく、自然と楽しい気分にさせてくれるような魅力が詰まった一冊だ。

この記事の中でご紹介した本
グッドバイ/白水社
グッドバイ
著 者:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出版社:白水社
以下のオンライン書店でご購入できます
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