黒瀬珂瀾『空庭』(2009) 繃帯に片眼を匿す佩剣の少女と走る雪の深更|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2018年1月9日

繃帯に片眼を匿す佩剣の少女と走る雪の深更
黒瀬珂瀾『空庭』(2009)

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空庭(黒瀬 珂瀾)本阿弥書店
空庭
黒瀬 珂瀾
本阿弥書店
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「鬼斬り・奇譚」と題された連作のうちの一首。一見すると難しい熟語と古めかしい文語体を使った昔ながらの短歌のようだが、よく読んでみるとなかなか興味深いところがある。繃帯で片眼を隠した佩剣(腰に剣をたずさえること)の少女とは、いかにも少年漫画かライトノベルにでも登場しそうな、現代風のヒロイン像だ。実際、2004年にこの連作が初めて発表されたとき、作者自らが「伝奇ライトノベル風短歌」と称しているのである。同年に大ヒットした伝奇ライトノベルといえば、もともと同人誌として刊行されこの年に講談社ノベルスから出た、奈須きのこ『空の境界』が挙げられる。

そういえば、九〇年代に大ヒットしたライトノベル『スレイヤーズ』(神坂一著)に登場する呪文が、文法的にはかなり怪しい文語調だった。ちょっと時代がかった文体から醸し出される非日常感に魅了されてしまうという思春期の傾向を、ユースカルチャーであるライトノベルはうまく衝いていたのだ。

この歌が含まれる「鬼斬り・奇譚」は、架空の伝奇ライトノベルのファンが書いた二次創作的短歌とでもいえるような、複雑な作品なのかもしれない。作者はアニメやゲームといった現代的な素材を用いながらも、普段から文語体を好む歌人である。アナクロ的な文体が今も残る短歌というジャンルで、アナクロ的なものに魅せられがちな青少年の心をくすぐるような設定を作ってみせる。実に批評的な短歌である。
この記事の中でご紹介した本
空庭/本阿弥書店
空庭
著 者:黒瀬 珂瀾
出版社:本阿弥書店
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年1月5日 新聞掲載(第3221号)
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