新春特集 新書のすすめ 師岡カリーマ・エルサムニーさんが新書を買う MARUZEN&ジュンク堂渋谷店にて|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年1月5日

新春特集 新書のすすめ
師岡カリーマ・エルサムニーさんが新書を買う
MARUZEN&ジュンク堂渋谷店にて

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新年恒例「新春特集・新書のすすめ」をお届けします。
二〇一八年の「新書を買う」企画にご登場いただいたのは、文筆家の師岡カリーマ・エルサムニーさん。日本とエジプトの血を受け継ぐ師岡さんは、日本で生まれエジプトで育ち、働きながらイギリスに通ってロンドン大学の学位を取得、今も世界各地を旅している。二〇一七年秋、梨木香歩さんとの往復書簡のかたちで『私たちの星で』を刊行。本書ではアラブと日本、あるいは世界の間の掛け違いが、二人の周りからときほぐされ、美しい紋様に変わっていった。単著に『変わるエジプト、変わらないエジプト』『アラビア語のかたち』『イスラームから考える』他、訳書に『危険な道 9・11首謀者と会見した唯一のジャーナリスト』などがある。執筆の傍らアナウンサーとしても活動し、複数の大学で教鞭も執る。

師岡さんに、寒さが本格的になる少し前、MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店で、新書を選んでいただいた。 


師岡カリーマ・エルサムニーさんが選んだ16冊の新書

●森炎著『なぜ日本人は世界の中で死刑を是とするのか』 (幻冬舎新書)
●堀内修著『ワーグナーのすべて』 (平凡社新書)
●宇野功芳/中野雄/福島章恭著『クラシックCDの名盤 演奏家篇』 (文春新書)
●中川右介著『冷戦とクラシック』 (NHK出版新書)
●波多野裕造著『物語 アイルランドの歴史』 (中公新書)
●関口義人著『ジプシーを訪ねて』 (岩波新書)
●宮川裕章著『フランス現代史隠された記憶』 (ちくま新書)
●本橋哲也著『ポストコロニアリズム』 (岩波新書)
●カレン・アームストロング著『イスラームの歴史』 (中公新書)
●臼杵陽著『世界史の中のパレスチナ問題』 (講談社現代新書)
●川本三郎著『向田邦子と昭和の東京』 (新潮新書)
●はらだたけひで著『放浪の聖画家ピロスマニ』 (集英社新書ヴィジュアル版)
●ゲーテ著『自然と象徴』 (冨山房百科文庫)
●ブレイディみかこ著『労働者階級の反乱』 (光文社新書)
●佐藤優著『テロリズムの罠』左巻/右巻 (角川oneテーマ21)
第1回
◎森炎『なぜ日本人は世界の中で死刑を是とするのか 変わりゆく死刑基準と国民感情』(七六〇円・幻冬舎新書)

「これは私が死刑に関して読む、最初の本です。私自身は死刑反対ですが、それは今のところ心情に過ぎません。被害者遺族の心境と、受刑者の命と……軽々しく自分の意見を述べられるような分野ではないですよね。意見を論理的に構築できるように、学ばねばならないと感じている事柄の一つです。

第一章では、戦後日本の主な死刑事件の軌跡を概観することで、犯罪と死刑と日本の社会の関係を考えようとしています。また二章では、社会や人間観の変化と重ね、死刑判決がくだる“基準”について、実例を挙げて説明されています。

気になるのは、副題の“国民感情”。世界では、死刑制度の廃止や執行の凍結が主流となっている中で、日本では死刑制度を肯定する意見の方が多いですよね。日本人のようなどちらかというと穏やかな人々が、どうしてこれだけのパーセンテージで、死刑に賛成しているのか。

この本は死刑問題について、多面的に、簡潔に、記された本なのではないか、そういう期待から選びました。本書をきっかけに、包括的に考えていきたい問題です」
◎堀内修『ワーグナーのすべて』(八四〇円・平凡社新書)

ワーグナーのすべて(堀内 修)平凡社
ワーグナーのすべて
堀内 修
平凡社
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「私はクラシック音楽が大好きです。幼い頃から聴いて育ちましたし、日本で働きながらロンドン大学で音楽学の学位をとってしまったぐらい。でも、ワーグナーは大嫌いなんです(笑)。今までに、ワーグナーについての本をいろいろ読みましたし、大学では論文だって書いた。だから食わず嫌いではないんですよ。でも、特にドイツ語圏で上演されるときの演出と、そこに込められたワーグナー主義が苦手なんです。オーケストレーションを聴いている分には、その凄みを感じることができますし、魅了される人々の気持ちもよくわかる。ただ歌詞が加わったとき、声の使い方やマチズモの香り立つ感じが嫌で。だからこれは私の、ワーグナーに対する最後の試みです(笑)。音楽評論家の堀内修さんが“すべて”とおっしゃっているし、作品についても上演についても網羅されている。もう一度だけこの本を読んで、もう一度聴いてみて、それでもだめなら、やはりワーグナーとは気が合わないのだと断言できます」
◎宇野功芳/中野雄/福島章恭『クラシックCDの名盤 演奏家篇』(一二〇〇円・文春新書)

「〈指揮者〉〈ピアノ〉〈弦楽器〉という項目で、演奏家が一〇〇人、CDの名盤が六四七枚網羅されている贅沢な本。指揮者では二〇世紀初頭に活躍したトスカニーニやクナッパーツブッシュのような大家から、現役のパーヴォ・ヤルヴィやダニエル・ハーディング、私が苦手なクリスティアン・ティーレマンまで、幅広く取り上げられています。

クラシックという、伝統が継承されていく世界で、“音楽に対してそれぞれ一家言を持ち、価値観も感性も異る三人”の識者が、どんな評価をくだしているのか。非常にワクワクします。特に、新しい解釈を加えて演奏する若い音楽家に対し、どのような視線を注いでいるのか。あるいは、誰もが一目置く大家の演奏を、どのように評価するのか。

パーヴォ・ヤルヴィにはインタビューをしたことがあります。この本の中でどのように評価されているのか、私の考えとどれぐらい同じでどれぐらい違うのか……ちょっと覗いてみましょうか。パーヴォ・ヤルヴィは、面白いほど評価が割れています(笑)。この本を読むことは、自分の価値観や評価軸を、見つめ直すチャンスでもあるんです」
◎中川右介『冷戦とクラシック 音楽家たちの知られざる闘い』(九四〇円・NHK出版新書)

「政治と芸術の関係は複雑です。中でも音楽は政治に利用されやすく、プロパガンダの道具として使われることもありました。そういう中で、例えばフルトヴェングラーのように、祖国の政治状況に本当は反対でも、大音楽家だからこそ自分が国に残ることで守れるものがあると、亡命せずに踏みとどまった人々がいました。そのことで、後にナチズムと協力したという誤解を受けもするのですが。

同じく、冷戦時の音楽家たちにも静かな闘いがありました。ショスタコーヴィチが、ソ連共産党との関係の中で、どのように音楽を生み、どれだけの苦しみがあったのか。ムラヴィンスキーもソ連に残った人ですね。私は亡命した人よりも、残った人に興味があります。主義主張を守るとはどういうことか、曲げた人は果たして間違っていたのか、それを裁く権利が私たちにあるのか。主義を曲げることで守れたものがあったのか、なかったのか……。この一冊から、芸術について、人間について、政治について……多くのことを考えることができるだろうと思うのです」
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この記事の中でご紹介した本
2018年1月5日 新聞掲載(第3221号)
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