自動車会社が消える日 / 井上 久男(文藝春秋)自動車産業界のパラダイムシフト  クルマの所有から「利用」へのシフト|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

著者から読者へ
2018年1月7日

自動車産業界のパラダイムシフト 
クルマの所有から「利用」へのシフト

自動車会社が消える日
著 者:井上 久男
出版社:文藝春秋
このエントリーをはてなブックマークに追加
「二〇五〇年に消えるものは、ガソリンスタンド、運転免許証、信号機、自宅の駐車場ではないか」

こう持論を語るのは、産業革新機構会長の志賀俊之氏だ。氏は日産自動車で最高執行責任者(COO)を務め、現在も同社の取締役を兼任している。四十年近く自動車業界を見てきた経営者だ。

自動車産業界ではいま、大きなパラダイムシフトが進んでいる。二〇年以上、自動車産業を取材してきたが、日常の取材から筆者も業界に迫りくる変化をひしひしと感じる。その動きについて、多くの具体的な事例を織り交ぜながら、技術的なトレンドと主要自動車メーカーの動向といったアングルから平易にまとめたものが本書だ。

自動車産業の動向は「CASE」というキーワードで示すことができる。Connected(つながるクルマ)、Autonomous(自動運転車)、Shared(配車サービスなど)、Eelectric(電気自動車)の頭文字を合わせたものだ。

CASEはますます進化していく。電気自動車の普及によってガソリンスタンドは不要になる。クルマがインターネットに常時つながるようになると、車の持ち主が使わない時間は、シェアカーとして貸し出す時代も来るだろう。ネットで指示を受け、無人の完全自動走行によって、借りたいお客のところに勝手に動いて行く。そうなれば自宅の駐車場は要らなくなる。

優れた予知機能を持つ人工知能が搭載された完全自動運転車であれば、信号の指示に従わなくても事故は起こらない。また人間が運転しないので、免許証も要らなくなる、といった具合だ。

これからは国内でも高齢化がますます進み、買い物に行くために運転したくてもできない人が多く現われるだろう。この「移動難民」対策のためにも、安全安心な自動運転機能は求められる。

このような社会になれば、消費者の意識は、クルマを所有することよりも、「利用する」ことへシフトしていくのではないか。その結果、自動車会社は、単に安くて性能・デザインが良いクルマを造っていれば済む時代ではなくなる。

消費者がクルマをいかに快適に利用できるか。そのことを意識した「移動手段」を提供していかなければ、自動車会社の存在感はなくなってしまう。そればかりか市場から消え去る会社が出るかもしれない。そうした思いが、本書のタイトルに繋がった。

クルマに「移動サービス」としての機能が一層求められるようになると、「クルマのスマホ化」も進む。いまやスマートフォンは単なる携帯電話ではないが、それと同じようにサービスのプラットホームとして、クルマが使われる時代が訪れるという意味だ。グーグルなどIT産業からの参入が相次ぐのも、こうした動きを見据えてのことだ。

トヨタ自動車の豊田章男社長も自動車産業の現状を、「勝つか負けるかではなく、生きるか死ぬかの戦いが始まっている」と見ている。

自動車産業は二〇世紀を代表する産業だった。雇用吸収力、税収といった面からも社会に与える影響は大きかった。果たして二一世紀も産業の頂点に立っていることができるのだろうか。
この記事の中でご紹介した本
自動車会社が消える日/文藝春秋
自動車会社が消える日
著 者:井上 久男
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年1月5日 新聞掲載(第3221号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
著者から読者へのその他の記事
著者から読者へをもっと見る >
ビジネス・経済 > 自伝・伝記関連記事
自伝・伝記の関連記事をもっと見る >