自然と象徴 / ゲーテ(冨山房)ゲーテ自然科学の入念で包括的な選集 あまたの出口へと続く、万人に開かれた一冊|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年1月8日

ゲーテ自然科学の入念で包括的な選集
あまたの出口へと続く、万人に開かれた一冊

自然と象徴
著 者:ゲーテ
出版社:冨山房
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自然と象徴(ゲーテ)冨山房
自然と象徴
ゲーテ
冨山房
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ゲーテといえば、『若きヴェルテルの悩み』『ファウスト』などの作者であり、大詩人、文豪としてよく知られている。一方、ゲーテには、色彩論、現象学、形態学、生物、地質学など、より広い分野にわたる自然科学者としての顔がある。 ゲーテの自然科学論集である本書は、アンソロジーの形式の四部からなり、巻末付録に「用語解説兼索引」「人名解説兼索引」「ゲーテ年譜」を付す。きめ細やかな仕事である。編訳者は「ゲーテ自然科学全集」のほか、ゲーテの文学作品、自伝的作品、書簡、対話録などにも目を通し、「入念で包括的な」選集を編んだ。

例えば第一部「自然観」の冒頭は「神と世界」と題された、自然科学的なひらめきを持つ詩群から始まる。「流転のなかの永遠」「一と全」「植物のメタモルフォーゼ」「動物のメタモルフォーゼ」「大気」「内視的色彩」など、ゲーテの自然科学観の結晶した詩の数々。その一つ、「あいだにエピレマ」には「そうだ 自然の観察に際しては/「一と全」とに眼を注げ/内にあるものもなければ 外にあるものもない/内がそのまま外なのだ」と。これはそのまま、「超自然的なものを見出す手立てとしての直観」を大事にし、「直観によって数字や法則とは違った可視的な自然に」迫ろうとするゲーテの自然科学観の要諦となる。「自然のなかに瀰漫している神聖にしてかつ横暴な力」であるところの「全き自然」が、「話しかけてくる言葉を聞きとることに至上の喜びを感じていた」ゲーテ。詩のかたちで自然との対話、あるいはこの世界でのより崇高な生き方を教えてくれている。これらの詩を入口に、私たちはゲーテ自然科学の世界へと誘われていく。

第二部「方法論」では、書簡や『ファウスト』等の文学作品、『対話録』や『箴言と省察』等々を渉猟することで、ゲーテの認識方法の全体を浮かび上がらせようとする。また第三部「形態学」では、「ありとあらゆる動物や植物は、原動物(原型)や原植物のなかに包摂され、この点で自然は根源的な同一性を示している」と同時に「自然は原動物や原植物の枠のなかにおいて、果てしなくメタモルフォーゼしてゆくことができる」という視点から、動的で総合的な生物学の確立を目指したゲーテの論を織りなしていく。

どの項においても、多様で幅広いゲーテの思索の中から、その中枢部分が濃密かつ簡潔に、編訳者によって選り出される。未完の多いゲーテ自然科学論をある種統一して見せ、さらに読者には、芸術作品を味わうような寛いだ時間も用意されている。ゲーテの理念とそれを象る言葉の豊潤さ。そして編纂の巧みさ。アンソロジーの語源は、ギリシア語の「花」と「集める」の合成語らしいが、本書の構成はこの語源に似つかわしい。

第四部「色彩論」は、「色彩を計測可能な自然現象として対象化し、定量化しようとする」ニュートン以来の近代科学に対するゲーテの挑戦と、「哲学、生理学、物理学、化学、心理学、美術史、精神史にまたがる一つの新しい「学」」の樹立の試みの様子を伝える。

「多くの科学者がはるか昔に忘れ去った科学と人間、知と生の根源的統一性」の境地の中で「自然を研究することがとりもなおさず「自分自身を無限に完成してゆく」道であること」を、ゲーテは読者に指し示している、と編訳者は書く。一九八二年の初版刊行当時、ゲーテの自然科学は再評価の気運にあり、物理学あるいは生物学の研究者たちが、ゲーテ論の「方法」に注目を寄せていた。それも、この世界の根本現象を見い出すゲーテの真摯で普遍的なまなざしがもたらした結果だろう。ゲーテは言う。「自然科学を研究しなかったら、私は人間をあるがままに知ることなどとてもできなかったでしょう。(略)自然はつねに真実で、つねに真面目で、つねに厳格です。自然はつねに正しくて、過失や誤りはつねに人間にあります。(略)その神性に触れるためには、人間は至高の理性にまで身を高めることができなければなりません」

本書はあまたの出口へと続く、万人に開かれた美しい前庭のようである。ある人はここから物理学へ、あるいは生物学、哲学、美学、文学へとその道を進むだろう。またそうした専門的な道でなくても、より美しい光を感じられる日常へと、本書は導いてくれる気がする。
この記事の中でご紹介した本
自然と象徴/冨山房
自然と象徴
著 者:ゲーテ
出版社:冨山房
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年1月5日 新聞掲載(第3221号)
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