二〇一七年度東京女子大学学会主催 公開連続講演会 歴史のなかの『LGBT』 第二回 LGBTを語る ―性の多様性のなかで―  講師:星乃 治彦氏 (十月二三日)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年1月12日

二〇一七年度東京女子大学学会主催 公開連続講演会
歴史のなかの『LGBT』 第二回 LGBTを語る ―性の多様性のなかで― 
講師:星乃 治彦氏 (十月二三日)

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第2回
■歴史的プロセス

 「思春期の自殺者のうち約三〇%が同性愛者を中心としたセクシュアル・マイノリティである(一九八九年アメリカ保健社会福祉省調査)」という調査結果がある。日本でも二〇一五年四月、一橋大学アウティング事件(同性愛の恋愛感情を告白した相手による暴露(アウティング:本人の了解を得ず、性的指向などを暴露する行為)をきっかけとしてゲイの学生が投身自殺を図って転落死したとされる事件)が起きた。星乃氏は、「そういった現状はおそらく続いているし、若い命を奪う大きな問題として真摯に受け止めなくてはいけない」と警告する。

・エージェンシー(抵抗主体)の形成

フランスの思想家ルイ・アルチュセールは、自分のエージェンシー(抵抗主体)がどのように形成されていくのかについて、「警官から呼びとめられてふっと後ろを振り返った瞬間にエージェンシーが生まれる」と比喩的に表現している。

星乃氏は本質主義的なアイデンティティ・ポリティックスの典型例として、ゲイの解放運動の中で必ず語られ伝説化している、「ストーン・ウォールの反乱」
(一九六九年、ニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」で警察の踏み込み捜査を受けた同性愛者らが初めて権力に立ち向かい暴動を起こした事件)を紹介し、同性愛をめぐる歴史的変遷について、

「解放運動は六〇年代からはスタートするが、歴史的に見ると古代は近現代のような扱い方をされていなかった。性に科学的な概念がなかった古代ギリシャやローマでは、自然な状態としてセクシュアル・マイノリティが認められていた。これがキリスト教の倫理観や知恵を獲得することによって異常だとみなされていく。中世において同性愛は「自然に反する」性行為(ソドミスト)とされ、同性愛だけでなく鶏姦、獣姦、オナニーにいたるまで生殖を目的としない性の在り方が犯罪とされた」。

日本においても武士の時代、同性愛は衆道と呼ばれ武家の嗜みとされていた。これが近代になると同性愛者という概念が生まれてくる。

・概念が形成され、差別が生まれる

一八六九年、ハンガリーのカール・マリア=ケルトベニーという文筆家が同性愛という概念を初めて使用した。一九六〇~七〇年代は、ヨーロッパにおける第二次産業革命の時期(ドイツ史における古典的近代)に「優生学」が誕生。概念が形成され、差別が生まれてくる。それは同性愛者への弾圧と迫害が始まる次期でもあった。

「オスカー・ワイルドのスキャンダル、ランボーとヴェルレーヌの関係、チャイコフスキーが甥との関係によって命を落とす。抑圧が強まることに反発する解放運動の祖として、性科学の先駆者であるカール=ハインリヒ・ウルリヒスが登場する」。

前後して、ドイツの刑法一七五条が出来る。この刑法はナチスの時代に非常に厳しく解釈され、同性愛者というだけで強制収容所に入れられて、推定最大一万五〇〇〇人が命を落としたと言われる。一九八五年には保守派の大統領ヴァイツゼッカーが、過去を直視したドイツ敗戦四〇周年の演説「荒野の四〇年」で、ユダヤ人だけでなく同性愛者を含むマイノリティを想起しなくてはいけないと述べた(ナチスドイツによる同性愛者への迫害は舞台「BENT(ベント)」で描かれている)。この刑法一七五条はドイツ統一後の一九九四年まで撤廃されなかった(西ドイツでは、ナチス期より多くの人が監獄に入れられていた)。

・アラン・チューリング

戦争中にナチの暗号法エニグマを解いたことで有名な、イギリスの数学者・コンピュータ科学者のアラン・チューリングは、一九五〇年代に同性愛の罪で捕えられ、入獄かホルモン治療(同性愛は病気と考えられていた)を迫られる。彼はホルモン治療を選び、そのことが彼の命を奪った。科学の発展により、犯罪視や病気とされてきた性的マイノリティは、人種差別や他のマイノリティ同様、六〇年代の一連の公民権運動と機を共にした解放運動によって認知され権利を勝ち取るというプロセスを経て、現在の同性婚に至っている。

・いくつかの疑問

ここまでの歴史的なプロセスを概観した上で、星乃氏は以下のような疑問とさまざまな事例を示し、参加者も自分の問題として考えながら考察を進めた。

(1)マイノリティ一般に関して=非対称性の問題(差別する側/差別される側)

(2)同性愛者を論じる難しさ(同性愛の不可視性、定義の不安定性)

(3)性的指向(セクシャルオリエンテーション)の拡大⇒LGBTTQQIAAP(註1)

(4)性のグラデュエーション(不安定で可変的な性の在り方)

(5)愛・セックスとは(本質的な問い)

星乃氏は、歴史家はいろいろな社会問題に立ち向かうべきだとし、性の問題だけでなく差別やマイノリティの問題を自分の問題として捉え全体として考えてみること。性をツールとして結びつけられるような「関係性」に注目すること。「男らしさ」「女らしさ」を作り出している構造を問題視すること(社会構築主義)などを説明した。




この記事の中でご紹介した本
男たちの帝国  ヴィルヘルム2世からナチスへ/岩波書店
男たちの帝国  ヴィルヘルム2世からナチスへ
著 者:星乃 治彦
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年1月12日 新聞掲載(第3222号)
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