対談=臼杵陽×早尾貴紀 「大災厄(ナクバ)」は過去ではない イラン・パペ『パレスチナの民族浄化』と米・エルサレム首都承認問題|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年1月12日

対談=臼杵陽×早尾貴紀
「大災厄(ナクバ)」は過去ではない
イラン・パペ『パレスチナの民族浄化』と米・エルサレム首都承認問題

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第3回
帝国主義に翻弄されたパレスチナ

早尾 
 時代が下り、『パレスチナの民族浄化』では、一九四八年のイスラエル建国宣言を前後して、パレスチナ住民がいかに計画的、組織的に虐殺・追放を受けたのか、シオニストによる「民族浄化」の一部始終を、資料を分析し、数々の事例を挙げることで示していきます。

一九四八年という年は、東アジアでは朝鮮半島の南北の分割がありましたし、前年には台湾で二・二八事件が起こっています。中国の内戦で四九年に中華人民共和国が成立。五〇年には朝鮮戦争が起こります。この時代には、第二次世界大戦までの帝国主義的な利害が、戦後の秩序の中で再分割、再編成されていく過程がありました。パレスチナの置かれた状況も、そうした動きと無関係ではなかった。
臼杵 
 付け加えると、これはイギリス帝国の第二次世界大戦、特にスエズ戦争以降の衰退史でもあります。最も大きなものに四七年のインド・パキスタン分離独立があり、その対応措置をパレスチナにも踏襲したところがありました。

イギリスは三九年までにパレスチナ白書を出して、バルフォア宣言を事実上否定し、パレスチナをユダヤ人国家にするという構想を捨てています。つまり形式上、イギリスはシオニストには協力していない。ただ事実として、パレスチナの委任統治から手を引いて後、イギリスが何もしなかったことで、シオニストたちのやりたい放題を許し、ユダヤ人国家設立へのプロセスが作られていきました。 

『パレスチナの民族浄化』では、例えばイギリスの軍人オーデ・ウィンゲートが、パレスチナのシオニスト部隊の基礎を作ったことが指摘されています。「ユダヤ人国家という理念は軍事主義や軍隊ともっと強く結びつけなければならない」、あるいはイギリスの軍曹から「無防備な村人を襲撃するための」銃剣の使い方を教わったと。そうして作られたイスラエルの軍事部門ハガナーの「暴力的視察」によって、アラブの民衆はまるで物のように撃たれ、獣のように郷里を追われます。

つまりパレスチナ問題には、イギリスの無政策がまずあり、その上で国連による現状を全く無視した無責任な分割決議があった。当時の国連加盟国が、パレスチナの現状についてどれぐらい理解していたかといえば、ほとんど何も知らなかったでしょう。そういう中で、虐殺・追放等の暴力的行為により、既成事実としてユダヤ人の土地がどんどん確保されていきました。多くのパレスチナ人が殺され、あるいは暴力的に土地を追われることになったのは、国際社会のせいだともいえるわけです。
早尾 
 国際社会の無責任さが、結果的にシオニズム・ロビーの肩を持つかたちで、事が進められてしまった。他方で、イスラエルのシオニストたちは、国際社会の無関心をうまく利用して、計画的にパレスチナの軍事占領の道筋を作り上げていきました。それを今回のエルサレム承認問題では、アメリカが反復しようとしている、ということになりますね。
臼杵 
 シオニストたちは自分たちの行いを正当化するために、例えば旧訳聖書「サムエル記」に出てくる、「ダビデとゴリアテ」の物語を利用します。巨人ゴリアテをいたいけな少年であるダビデが投石器一つで打ち殺すという、その物語になぞらえて、少年ダビデがイスラエル、周辺のアラブ諸国がゴリアテというイメージを流布していったわけです。しかしながら内実は、イギリスから軍隊の基礎を学び、世界中のユダヤの同胞から金をかき集め、軍事的に強大化していきました。四八年の時点で、イスラエル軍は圧倒的有利に立っていた。またヨルダンとの密約もあった。ところが世間では、イスラエルは建国間近の弱弱しい小さな国だ、とみなされていたのです。

イラン・パぺ氏の本には、イスラエルの武力の強大さと、無防備なパレスチナ人に対する計画的な狼藉の数々が、資料を前提に、これでもか、これでもかと、畳み掛けるように記されています。そうした事実は、研究者の間では知られていても、一般の人は驚くかもしれません。神話とは、常に作り上げられるものなのだということを認識していないと、受け止めにくいかもしれない。小さなイスラエルが、敵に囲まれながら、長年の苦難を越えて必死になって建国した、という物語の方が、心の負担が少なくてすみますから。
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この記事の中でご紹介した本
パレスチナの民族浄化 イスラエル建国の暴力/法政大学出版局
パレスチナの民族浄化 イスラエル建国の暴力
著 者:イラン・パペ
出版社:法政大学出版局
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年1月12日 新聞掲載(第3222号)
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