白石かずこ詩集成Ⅰ / 白石 かずこ(書肆山田)「激しい季節」から生まれた沸騰した六〇年代を象徴する詩篇|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2018年1月13日

「激しい季節」から生まれた沸騰した六〇年代を象徴する詩篇

白石かずこ詩集成Ⅰ
著 者:白石 かずこ
出版社:書肆山田
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白石かずこは、サブカルチャー、カウンターカルチャーの勃興期だった一九六〇年代の、時代のアイコンだったなあ。本書を通読しながら、そう回想していた。本書は、デビューから現在にいたるまで、白石の詩業を全三巻に分けて刊行するシリーズの最初の配本で、一九四九年から一九七五年までが収められるが、中核となるのが、一九六五年刊の『今晩は荒れ模様』と一九七〇年刊の『聖なる淫者の季節』、この二冊である。まさに沸騰した六〇年代を象徴する詩篇を読むことが出来る。

ふと思い出すのが、「激しい季節」という言葉だ。これは、舞踏家の故室伏鴻が編集した舞踏新聞の名前で、発行されたのは七〇年代だったが、六〇年代から七〇年代初頭にかけての、反安保・反権力闘争を旗印にした社会と文化状況の昂揚感を端的に表したのがこの言葉だろう。挟まれた栞の文章で四谷シモンが初対面のときを回顧して、「ゴーゴーがはやってましたね」と述べているが、激しいリズムで踊るゴーゴーダンスにせよ、ジャズミュージシャンと共演する詩の朗読にせよ、当時の白石にはお得意のもの。派手なメイクで膝上丈のミニスカート姿の白石かずこのイメージは、まだ詩に関心を持っていない頃のわたしなどにもお馴染みだった。メディアへの露出も高かったのだろう。

「激しい季節」だった六〇年代、しかしそれからもう半世紀が経過して、あの頃もいわば歴史のなかの時代と化しつつあるようだ。先日、世田谷文学館で開催された澁澤龍彥展を鑑賞した。一九六一年から始まったサド裁判が象徴的だが、異端の文学や美術の魅惑を語る澁澤の周囲には、三島由紀夫や暗黒舞踏の土方巽らがいた。また若者たちは、アングラ演劇やフリージャズやロックに熱狂し、まさしく「激しい季節」を生きたのである。展示を眺めながら、澁澤は六〇年代のこの国の顔であったことを確認した。白石もまた、あの時代の寵児だったといえよう。

ただ、わたしが白石を同時代の現代詩人と意識したのは、ずっと後、一九八〇年代になってからだ。白石は、一九八二年に詩集『砂族』を出した。するとさっそく入沢康夫がこれを高く評価し、さらには浅田彰が、当時の現代思想界で大きな影響力のあったドゥルーズ+ガタリの提唱する「リゾーム」という概念を引き合いに出して、『砂族』のリゾーム性を顕彰した。それを知ってわたしも『砂族』を読んでみたのだと思う。テクストに充ち溢れた言葉の旺盛な生命力には吃驚した。そしてその後の一九八八年の『ふれなま、ふれもん、ふるむん』、一九九六年の『現れるものたちをして』などにも親しく付き合ったのである。

だが、白石の六〇年代の詩業を親身になって読み返す機会はないままだった。今回の書評が良い機会となった。とにかく虚心坦懐に読もう、と六百ページを超える本書に向き合った。すると、こんな詩行が眼に留まる。「大洪水です/一滴の涙が こぼれ始めたばかりに//あたしの寝室もドアも曇り/風の中で首をつってる/あたしの少女がみえる//あたしはみえない運河にむかって 消えかかる文字をかいていくのです」。『虎の遊戯』(一九六〇年)から「大洪水」の全行である。さらにはこんなパートも面白い。『聖なる淫者の季節』から。「わたしは/ストーミイ・マンディ・ブルースをきく/木曜日に鷲がとんだと/わたしの知らない男は/唄っているが/それは わたしの男に/きこえただろうか/わたしの男は 動物園で/〈鷲を撃っては いけない〉/と おしえてくれた/だが わたしは/おまえのかわりに 今日/鷲を撃ちころしたい/アメリカのかわりに/受話器を/おまえの声の かわりに/音のつぶれた紙に/塗りこめられたコトバを/撃ち 授精したい」。

白石語とでも称するよりない、性のモラルを超越し、地上の万物とも交信しながら、天衣無縫の語りくちで綴られるコトバの大行進である。「激しい季節」から生まれたものに違いない。六〇年代の証しだろう。しかし、現在、それがなんとも新鮮に感じられる。白石かずこの『詩集成』が、いま刊行されることには、確かな意義があると思う。
この記事の中でご紹介した本
白石かずこ詩集成Ⅰ/書肆山田
白石かずこ詩集成Ⅰ
著 者:白石 かずこ
出版社:書肆山田
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2018年1月12日 新聞掲載(第3222号)
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