石破茂×冨山和彦×猪瀬直樹 日本文明研究所シンポジウム載録 アベノミクスのその先の再生戦略|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年1月19日

石破茂×冨山和彦×猪瀬直樹 日本文明研究所シンポジウム載録
アベノミクスのその先の再生戦略

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二〇一七年十一月二十九日、日本文明研究所の第十回シンポジウム「これからの日本はどうしたらよいのか?―アベノミクスのその先の再生戦略」が行われた。登壇者は、自由民主党元幹事長、初代地方創生大臣の石破茂氏、経営共創基盤代表取締役CEOで数多くの企業変革や業界再編に携わる冨山和彦氏、モデレーターを作家で当研究所所長の猪瀬直樹氏が務めた。第一部では石破氏の講演が行われ、それを受けた二部のシンポジウムでは、時間を延長して日本の経済状況や今後について、厳しく熱く語られた。日本の置かれた状況は予断を許さないが、この日語られた再生戦略には未来があった。二部シンポジウムの内容の一部を載録する。(編集部)
第1回
アベノミクスとは何だったのか

猪瀬 直樹氏
猪瀬
 十一月二十九日付の日経新聞の朝刊に、〈税収、来年度バブル期並み、二十七年ぶりに五十八兆円超〉という記事が出ていました。消費税が五%から八%になり七兆円ほど増えているので、実質は約五〇兆円ということになりますが、これはすごい税収です。
一方、これはたびたびニュースで言われていることですが、バブル前の一九八五年の世帯年収は平均四一八万円。一九九五年の世帯年収は五五〇万円。そして二〇一五年は四二八万円。すっかり元に戻っています。アベノミクスが雇用改善に寄与したなどと言われていますが、本当のところ政策がどう影響しているのか、していないのか。アベノミクスとは、いったいなんだったのか。その辺りを、まず冨山さんに説明してもらいましょうか。
冨山
 私が考えたわけではないのですが(笑)。結果的に何が効いたかだけを言うと、さすがにあれだけ金融緩和をすると、円は弱くなるんですよね。円が弱くなると、日本の株価が安くなります。パナソニックやトヨタなどの日本のグローバル企業は、業績でいうと儲かっているのは海外子会社です。これは全てドル立て商売なので、円安の一ドル=八〇円換算なら、何もしなくても一・五倍の利益になります。要するに経営者の能力とは関係なく業績が良くなります。結果的に、グローバル経済の領域には良く効いたということです。それが株価に跳ねて、グローバル企業の株価が上がると、少なくとも株を保有しているような富裕層の懐は豊かになり、百貨店で高いものが売れる。そういう図式です。ただ、マクロ経済にこれ以上の見込みはありません。
では、デフレ脱却は効いたのか。これだけで人々の消費活動が活発になったとはとても思えません。今は消費不況と言われていますが、消費者の側に立ってみれば、貨幣価値が下がることよりも、名目賃金が下がり続けていることの方が直接響くと思うんです。今の二〇~三〇代は、社会人になってこの方、賃金が下がったことしか経験していません。一方で、社会保険料は増えていますから、実質的な可処分所得は減り続けている。つまり、賃金や可処分所得が上がるという期待が持てない限りは、消費は元気にならないということです。いくらインフレ誘導をして、仮に今後インフレ率が二%になっても、状況は変わらないでしょう。
それでは消費者の期待にどのように訴えられるかですが、持続的に生産性が上らない限り、賃金は上らないんですね。日本の生産性はこの二〇~三〇年の間、世界の中で圧倒的に停滞しています。
では、どこの生産性が停滞していて、どこが上る可能性があるのか。トヨタやパナソニックなどのグローバル企業の生産性はこれ以上上げようがない。これらの国内工場、生産拠点の生産性は、世界トップレベルですから。しかしグローバル企業の生産性が日本の経済全体の何割を占めているかといえばたった三割、雇用については二割なのです。問題は結局のところ、ローカル経済圏の賃金の低さと、生産性の停滞なのです。
現在、雇用状況がよくなっていると言われていますが、その圧倒的な要因は、二〇一二年、安倍政権が登場したと同じタイミングで、団塊世代の大量退職が始まったことです。この時点で、完全に労働需給の構造が変わりました。
私は、十年前から福島県や岩手県でバス会社を経営していますが、この十年間、一貫して運転手が足りないんです。とうとう東京でも労働力不足が表面化しましたが、地方は若年層人口が長年東京に流出していますから、とうの昔に労働力が足りないし、そのためずっと不景気です。人口減少は日本の未来にとって非常にシビアな問題ですが、裏返せば、人口の減少を止めるには、生産性と賃金を上げて、懐を豊かにし、地方から東京に人材が出ていかないようにして、地方で出産・子育てをしてもらうこと。それが急務なのです。そういう視点では、政策は打ち出されていませんね。
猪瀬
 つまりアベノミクスは、今、冨山さんが話したような経済の活性とは、相関関係がないということですか。それでは、政策に何の意味があるのか、ということになるよね。
冨山
 私が中堅中小企業、ローカル経済企業の経営に関わってきて感じるのは、地方経済は政府の補助金づけのゾンビ状態だということです。我々が地方でバス会社を再生すると、ほぼ連戦連勝です。戦略的に経営をすれば利益も賃金も上がるのです。実際にうちのバス会社は、一〇年間で約二割賃金が上がっています。私が思う政策的にやってはいけないことは、ゾンビ企業の延命です。これだけでも、相当な資金と労力を減らせると思います。
猪瀬
 ゾンビという言い方は厳しいけれど、実際にローカル企業は経営が破綻状態でも、金融で銀行、信用保証協会、商工中金などの融資で存命している。かつて亀井静香さんは、その救済措置を強化しましたね。つぶれそうな会社はたくさんあるけれど、近代的な経営をしさえすれば救出できるところも多くある。ところがカンフル注射を与えるのみで、会社の体質を新しく変えていくプロセスが辿れない。それが日本の経済の停滞の一因だということですよね。
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2018年1月19日 新聞掲載(第3223号)
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