八重山暮らし(25)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!
▶メールマガジン登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

八重山暮らし
2018年1月23日

八重山暮らし(25)

このエントリーをはてなブックマークに追加
ヒルギの胎生種子が発芽し、生長する。
石垣島アンパルと呼ばれる干潟にて。
(撮影=大森一也)
海の森で


海中から垂直に幹を伸ばす。寄せる波、つよい潮風にも負けず、周囲に根を張り巡らす。鉄のように頑丈な樹木だ。そのゴツゴツとした樹皮を鉈で剥ぐ。すると赤茶色の皮が現れる。剥ぎ取った皮は分厚いベーコンみたいに、じっとりと重みがある。

海と川の出合う河口域に広がる海の森、マングローブ。潮の干満で劇的に風景が変わる。そこに生育するヒルギ類の根は、水中にあっても呼吸をしている。タコ足状の大きな根を四方に張るヤエヤマヒルギ。膝頭を寄せ集めたような根に支えられるオヒルギ。地面からつんつんと突き出た根はマヤプシキ…。なかでも染色に適したものを島の人は熟知している。
「昔は、舟の帆をヒルギで染めたねぇ。おしゃれだってー? いーや、布を丈夫にするためさぁ。豚の血でも帆を染めたよ」

サバニ(木造舟)を操り島々を行き来した時代を生きた人びとの語りは、いつだっておとぎ話めいている。ヒルギを大鍋で煮出し、深い臙脂に染めた布は糸が膨らみ、幾分か厚みも増す。海上の風を自在に受けとめる堅牢な帆となった。おんなたちの手仕事は、いのちを託する布を生みだした。

海の森で水平線に瞳を凝らす。青い海に赤い帆が走る…。舳先を傾げ、波を鋭く切るサバニ。風をはらんだ布が眩しく視えた。
(やすもと・ちか=文筆業)
2018年1月19日 新聞掲載(第3223号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
安本 千夏 氏の関連記事
八重山暮らしのその他の記事
八重山暮らしをもっと見る >
人生・生活 > 生き方関連記事
生き方の関連記事をもっと見る >