侵略する豚 書評|青沼 陽一郎(小学館)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年1月27日

豚肉に焦点を当て世界の食糧問題に取り組む

侵略する豚
著 者:青沼 陽一郎
出版社:小学館
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侵略する豚(青沼 陽一郎)小学館
侵略する豚
青沼 陽一郎
小学館
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食肉の中で、とくに豚肉に焦点を当て世界の食糧問題に取り組んだ本である。本書は、米国と中国を取材して、そこで交わされた会話を中心に展開する。しかし、その会話は、米国と中国ではまったく異なっている。米国では全米豚肉生産者協会のロビイストへの取材だが、中国では連行された公安での取り調べでのやり取りである。

本書の題名になった豚肉の侵略のきっかけとなった出来事が紹介されている。それが1960年1月に米国からやってきた35頭の豚だった。この豚は伊勢湾台風の被害への支援として、アイオワ州の姉妹県の山梨県に贈られたものである。この善意には裏があった。その後この豚の遺伝子は日本全国へと広がっていったことにそれが象徴される。さらにこの豚は空輸されたのだが、その費用を全面的にバックアップしたのが、全米トウモロコシ生産者協会だったのだ。すなわち飼料の売り込みを目的としたものだった。現在日本は世界最大のトウモロコシの輸入国だが、その大半が飼料に使われている。米国の業界の先を見越した戦略だったことが述べられる。

米国では、米国食肉輸出連合会での年次総会への取材を目的に出かけ、そこでロビイストにインタヴューを行う。米国では各業界は多額の資金を投じてロビイストを使い政府や議会を動かしている。とくに食肉業界のロビー活動の強さは定評があり、本書でもそのロビイストの自信にあふれた言い草がそのまま伝わってくる。

次にミズーリ州にある豚肉加工工場に行く。その自動化が進んだ工場の風景が述べられるのだが、その中で著者は「豚に個体差がない」ことに違和感を持つ。日本への輸出用豚肉生産を目指したことが、日本人の豚肉の好みに合わせることになり、その結果、均一性がもたらされたというのだ。その結果、日本は米国産豚肉の最大の輸出先となった、と著者は述べる。

他方、中国では取材どころではなかった。公安によってつけ狙われ、連行され、取り調べられるのだが、著者はそこで、プライバシーの隅々まで掌握されていることが分かり、その監視国家の不気味に恐怖を抱くのである。中国の食糧戦略では、習近平を軸に話が進む。習による米国での前代未聞の大規模な大豆の買い付けなどが述べられ、今日の世界の食糧問題のカギを握っているのが米中にあるという構図を浮き彫りにしていく。いま、中国の国営企業が欧米の多国籍企業の買収を続けている。食肉の分野でも万洲国際が米国で最大の豚肉生産企業のスミスフィールド・フーズを買収している。いまや中国が世界の食肉に大きくかかわるようになってきた。

以前は日本の企業が、中国大陸を植民地のように利用して食料を生産、輸入してきた。それがいまや逆転して、中国が日本人の胃袋を支配するようになってしまった。恐るべき米国の食肉産業の戦略に、中国の食料戦略が合わさり、日本の食や農が翻弄されていることがよく分かる。

著者はこれまでにも『中国食品工場の秘密』『食料植民地ニッポン』など、食糧問題について現地を取材し執筆してきた。その追跡してきたテーマの最新版ともいえる本である。食を制する者は世界を制する。そのことを理解できるし、いまの世界をより知りたい方は、是非読んでほしい本である。
この記事の中でご紹介した本
侵略する豚/小学館
侵略する豚
著 者:青沼 陽一郎
出版社:小学館
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年1月26日 新聞掲載(第3224号)
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