写真で読む三くだり半 書評|高木 侃(日本経済評論社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2018年1月27日

ひろく人間に関心をもつ方々に 
江戸時代に生きた男女のリアルな姿を伝える

写真で読む三くだり半
著 者:高木 侃
出版社:日本経済評論社
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著者の高木侃氏は、俗に「三くだり半」と称された離縁状や、満徳寺・東慶寺などの縁切寺に関する史料を幅広く収集・分析することで、江戸時代における(主として庶民の)結婚や家族の法と男女の地位に関する通説を見直し、新たな歴史像を打ち出したことで知られる法制史家である。当時の離婚や女性のイメージを大きく変えた『三くだり半』(平凡社、一九八七年。増補一九九九年)をはじめ、著者の業績にふれたことのある読者も多いだろう。

五〇年におよぶ研究生活のなかで著者が調査・収集した江戸時代(から昭和初期まで)の離縁状は一三〇〇通にのぼり、そのうち自らが所蔵する離縁状だけでも二〇〇通を数えるという。村の旧家などで古文書を調査した経験のある方ならご存じであろうが、離縁状は、どこにでも見つかるありふれた史料というわけではなく、よくぞここまで集められたものと、著者の熱意に頭が下がる。

本書は、新しい学説や議論を提示する専門書というよりは、著者が所蔵する離縁状(やその関連文書)九八通を読み解きながら、一般の読者を対象に、自らの研究のエッセンスを確認・紹介した作品である。九八通のそれぞれについて、写真・翻刻文(くずし字を活字にしたもの)・読み下し文を掲げるとともに、離縁状の形式や内容、離婚をめぐる経緯・背景などを丁寧にわかりやすく解説しており、古文書の初心者でも、その面白さを味わうことができる。また、これまで著者が主張してきた見解のうち、(1)夫が自由に妻を離婚しうるのではなく、夫婦(や両家)間の協議によって離婚するのが常態であったとする「熟談離婚説」と、(2)離婚を請求する側が、慰謝料の支払いや持参金の放棄のような経済的不利益を甘受したという「離婚請求者支払義務の原則」は、本書の豊富な事例により説得力をいっそう増している。

さらに、テンポのよい語り口で、いきいきと描き出された人間模様も、(女性の主体性や地位の高さを強調する点で、やや深読みの部分があるとはいえ)本書の魅力の一つである。たとえば、一九年間連れ添った先夫と別れて浮気相手と再婚したものの、実家の老母の介護に追われるなか、やはり長年の愛着ゆえか、後夫との離婚を求めて満徳寺へ駆け込み、先夫と復縁した「きく」の事例をみると、時代が変わっても、人はあまり変わらないことを教えられる。また、近村の名主宅へ駆け込み、その仲介のもとで夫との離婚を実現した「やす」の事例からは、現代の裁判所が果たす機能の一部を江戸時代には有力な住民が担っており、公私のさまざまなトラブルを自律的に解決するしくみや力量が地域のなかにある程度備わっていたことをうかがわせる。

「三くだり半」を素材として、江戸時代(から明治時代)に生きた男女のリアルな姿を伝え、当時の社会・文化の特徴を浮かび上がらせる本書は、現代の結婚や家族の問題を考えるうえでも示唆に富んでいる。歴史のみならず、ひろく人間に関心をもつ方々の手にとっていただきたい一冊である。
この記事の中でご紹介した本
写真で読む三くだり半/日本経済評論社
写真で読む三くだり半
著 者:高木 侃
出版社:日本経済評論社
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2018年1月26日 新聞掲載(第3224号)
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