八重山暮らし(27)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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八重山暮らし
2018年2月6日

八重山暮らし(27)

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冬の海岸はシギやチドリでにぎわう。石垣島大浜にて。
(撮影=大森一也)
南国の越冬

島の冬は寒い。吹きつのる北風をこらえる日が続く。海上の波は荒く、小雨交じりの曇天に鬱々となる。

西表島に暮らし始め、長い夏の暑さに馴染むまで数年を要した。五月を過ぎると総身があせもと湿疹にまみれた。やわな肌が恨めしかった。

高温多湿に慣れた頃、今度は冬の寒さに震えるようになる。毛穴の開いた皮膚に冷気が凍みるのだ。
「気温が16度 ここならパンツ一枚で走れるよ」。北の地に暮らす友は笑う。いや、しかし、この風がならない…、と口惜しげに呟く。やおら毛糸の肩掛けを被り、背を丸める。近所を歩けば、セーターを着込み、コートを羽織る人と出会う。

常夏と謳われる南国にあっても、冬は等しく寒い。
「島には芭蕉や苧麻の糸なら、いくらでもあったの。でも、木綿の糸が欲しかったさぁ。家族に柔らかい着物をどうしても着けたくてね…」

竹富島に暮らす知人は会うたびに語る。敗戦後間もない頃、ひたすら綿糸を探し続けた、と。ある日、漁網の素材が木綿であることに気付いた。網の結び目を解き、一本の縄にした。それを三人がかりでほぐし、竹の管に巻き取った。幾日もかけ、ほぐしては巻き取り糸にして、銀鼠色の着尺を織り上げた。嬉しさのあまり集落を飛ぶように巡った…。

潮の引いた海辺を野鳥が舞う。厳しい寒波を逃れ渡来した冬鳥が、八重山で越冬する。鳥は風そのものとなり、島の寒さに臆していない。
2018年2月2日 新聞掲載(第3225号)
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