ある婦人の肖像 書評|ヘンリー・ジェイムズ(国書刊行会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2018年2月3日

『ヘンリー・ジェイムズ作品集1』 ある婦人の肖像
日本女子大学 菅原 美和

ある婦人の肖像
著 者:ヘンリー・ジェイムズ
出版社:国書刊行会
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「結婚」という二文字は女性にとってどのような意味を持つだろうか。それはある人には「憧れ」であり、ある人には残酷な「現実」であるかもしれない。だが、私たちの人生に大きな影響力を持っているのは承知のことであろう。今回、紹介する『ある婦人の肖像』の主人公イザベル・アーチャーも「結婚」によって翻弄された女性である。

物語はイザベルの叔父タチェット氏のお茶会の場面から始まる。このタチェット氏はアメリカ人ながらもイギリスで銀行業を営む富豪である。彼の妻は主人公イザベルの母親の姉であり彼女にとっては叔母である。この叔母は義弟との仲の悪さから姪たちとは疎遠にしていたが、妹夫婦が亡くなったのを契機に末の姪の世話を始める。そして叔母の誘いからイザベルはイギリスのタチェット家に住むことになる。物語の前半はまさにシンデレラ・ストーリーである。知的好奇心旺盛なイザベルはイギリスの地でアメリカにはない荘厳な文化を吸収し洗練されていく。また、名門貴族のウォーバトン卿とアメリカ人実業家のグッドウッド氏の二人からプロポーズもされる。さらに幸運な事に従兄妹の計らいから叔父の多額の遺産までも相続する。洗練された生活に婚約者さらには財産まで手に入る状態になったイザベルはどうしたのであろうか。彼女は周りから干渉されず「自由」である事を心に決める。そして二人の男性からのプロポーズを断る。

では、物語の後半イザベルはどのような道を選ぶのか、読者の気になるところであろう。しばらくしてから彼女は前述の決断に反し、ある男性との結婚を決断する。なぜだろうか。イザベルにとって新たな求婚者であるオズモンド氏との結婚は、自由を尊重した理想の生活であると思われた。だが、夫は腹の中で何を考えているのか全く分からない謎の男であった。物語が進むにつれてなぜオズモンド氏がイザベルと結婚しようと思ったのか、そしてそれが誰の仕業だったのかわかる瞬間が訪れる。その時の爽快さはマジックのタネを見破った心地に匹敵する。きっと、このドキドキの心理戦を忘れることは一生できないであろう。それほどセンセーショナルなのである。本書は手に取ればわかるが、辞書のように分厚い。しかし、無駄なページは1ページもない。さすが心理描写に長けたヘンリー・ジェイムズの代表作である。このように書くと難しい本と思われがちであるが、そうではない。こんな事を書いては研究者に怒られてしまうかもしれないが、お茶の間で話題のテレビドラマを観ている気分で読めばいいと思う。

最後に、本書の魅力は「結婚」と「金銭」という普遍的主題を扱っている点である。主人公イザベルは周りに干渉されず自分自身で結婚相手を選びたいと強く願っていた。彼女にとって「財産」とは男性を魅了する「餌」ではなく、自由になるための「武器」であったのだが、その結果はどうであろう。物語は読者に疑問を残す形で閉じられる。物語の先は私たちの想像力にゆだねられているのだ。だからこそ、読者の人生経験次第で物語は様々な表情を見せる。10年後の私が読むときっと違う結末を想像するであろう。それこそが「読書」の楽しみであり、本書の魅力でもある。
この記事の中でご紹介した本
ある婦人の肖像/国書刊行会
ある婦人の肖像
著 者:ヘンリー・ジェイムズ
出版社:国書刊行会
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年2月2日 新聞掲載(第3225号)
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