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八重山暮らし
2018年2月13日

八重山暮らし(28)

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マーニ(コミノクロツグ)の大きな葉を橇にして遊んだという。
(撮影=大森一也)
フガラジナ


フガラジナに勝る縄は無い。昔からの縄の材を取りに行くという…。

引き締まった背筋を追いかける。93歳の齢を微塵も感じさせない。鎌と鋸を引っ提げた知人を見失わぬよう、いつしか小走りとなる。

キビ畑の道を逸れて山裾へと分け入る。陽を遮り、天を覆い、マーニの葉が四方に伸びている。巨大な葉が風に揺れる。今にも空へ羽ばたくようだ…。知人が小腰を屈めた。その幹の根元には黒茶色の繊維が絡み付いている。この繊維を剥ぎ取り、綯った縄を「フガラジナ」と呼ぶ。
「フガラジナは水に濡れても腐れない。網状にもつれているから、同じように裂けん。こうやって縄を綯う時も、ひとつひねったら、またひとつ戻る。はみ出た毛を戻しながら綯うからよ。時間が、かかるさねぇ」

若かりし頃、西表島の密林を切り開き、村建てに尽くした。仲間たちと協力し家屋も築いた。茅で葺いた屋根の仕上げにフガラジナを使う。台風の大風にも負けぬよう、祈りを込めて茅を縛った。縄綯いは夜の仕事。手が覚えているから、ランプの灯りでもできる。道を整備し家を建て、畑を作る。薪取りに水汲み…、昼日中にすべきことは際限がない。あるだけの手をかき集め、仲間川のほとりに理想郷をつくりあげた。

最後にフガラジナを綯ったのは、いつのことか…。重機も電動工具も無い。己の力が頼みの綱であった。惑いのない手元から、開拓の心意気が沸々と湧き出ていた。

(やすもと・ちか=文筆業)
2018年2月9日 新聞掲載(第3226号)
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