弥生美術館 滝田ゆう展  安倍夜郞氏トークイベント 開催|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年2月9日

弥生美術館 滝田ゆう展 
安倍夜郞氏トークイベント 開催

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弥生美術館で現在開催中の「滝田ゆう展」で一月二〇日、『深夜食堂』や本紙連載「夜郎戯暦」でもおなじみ、漫画家の安倍夜郎氏のトークイベントが開催された。安倍氏は子どもの頃から滝田ファンで、本展覧会には安倍夜郎セレクト・コーナーも設けられている。当日は学芸員の松本品子氏の質問に答えるかたちで、滝田作品の魅力と、自身の漫画への影響などを語った。

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◆弥生美術館滝田ゆう展開催中~3月25日まで◆
▽住所:東京都文京区弥生二―四―三
▽一般:九〇〇円▽月曜休館(祝日は翌火曜日)▽十時~十七時
昭和三八年高知県四万十市で生まれた安倍氏。

はじめに、「ボクが中学生の頃は、『少年チャンピオン』が売れていて、「がきデカ」や「ブラック・ジャック」、「ドカベン」などが人気でした。でもボク自身は、少年誌はあまり読んでおらず、字の少ない四コマ漫画などを、見ることが多かったように思います」と少年時代を回想した。そのような中で、どのように「滝田ゆう」に出会ったのか。

「ボクは小学六年生のときからペンで漫画を描くようになりました。当時滝田さんはテレビによく出ておられましたが、NHKの「この人この趣味」という番組では、滝田さんがいろいろな人のところへ行って話を聞き、最後に、話をテーマに滝田さんが描いた絵が映し出されました。カメラがパンしながら、絵を細部までじっくり見せていく。その絵を見て、これはいいなあと思ったんです」

じいさんばあさん子で、小学生のときから落語や時代劇、昭和歌謡に親しんでいた。滝田さんの描く世界を好きになる素地があったのだろう、と話した。

安倍氏は、早稲田大学の漫画研究会に入ったが、卒業後はCM制作会社に就職。「漫画家になろうと思っていたのですが、描けなかったんです。それで二十五歳で漫画家になろうとして無理で、三〇歳までにと思って描けなくて、じゃあ二〇世紀中になろうと計画を立てたのですが、それもだめで(笑)」。

二〇〇三年、四〇歳の時、「山本耳かき店」で小学館新人コミック大賞を受賞し、翌年漫画家としてデビューした。二〇〇六年十月『ビッグコミックオリジナル増刊』に「深夜食堂」読み切り三話分が初登場、二〇〇七年八月から『ビッグコミックオリジナル』での連載が始まる。同作で二〇一〇年に第五五回小学館漫画賞と、第三九回日本漫画家協会賞を受賞している。

「深夜食堂」の舞台は、新宿ゴールデン街。それは滝田ゆう作品の世界観と重なり合うものだ。

「以前、勤めていた会社が新宿御苑前にあって、先輩にゴールデン街に連れて行ってもらって以来、通い続けています。この漫画を描くにあたって、舞台はゴールデン街以外に考えられなかった。滝田さんもゴールデン街に来ておられたようですが、残念ながら一度もお会いしたことはありません」

滝田作品からの影響について問われると、「少年漫画やストーリー漫画の多くは、主人公の成長がテーマの一つにあります。でもボクはそれが描けなかったんですね。ボクの漫画も、滝田さんの漫画も、成長しないダメな人しか出てこないという共通点がありまして(笑)。それから、板壁の木目や畳の目など、細部を描くことが好きなのは滝田さんの影響でしょうか」

また自伝漫画『生まれたときから下手くそ』について、「「寺島町奇譚」の影響ですね。この作品は昭和五一年にNHKドラマになりました。お姉さん役で秋吉久美子さんが出ていて。自分の漫画もドラマになったらいいな、と思って(笑)」と話した。

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次に「安倍夜郎セレクション」の中から、滝田作品の魅力を解説した。

「ファンになったきっかけの一つは、滝田さんの画によく登場する、面長でおちょぼ口のお姉さん。子ども心に、色っぽいなぁと。唇にちょこんと紅がさされて、頬と指先が淡いピンク色。芸が細かいんですよね」

「二〇〇三年に東向島の東武博物館で、柳橋を芸者さんが歩いてくる絵を見ました。何とも言えない色づかいと構図に、しばらく前を動けませんでした」
(※「怨歌橋百景・柳橋幻夜」本展後期2/14から展示)

「「ぎんながし」は、「寺島町奇譚」の第一話です。この頃の画には、滝田さんがナンセンス(ギャグ)漫画を描いていた頃の名残が見られます。滝田さんは、三等身のキャラクターで人間ドラマを描いた最初の人ではないかと思います。コメディアンがシリアスな芝居をすると、そこになんともいえない哀感がにじみ出る。滝田さんのキャラクターにも同じような味わいを感じるんですよね」

「この「寺島町奇譚」と、野坂昭如さんの短篇を漫画にした「怨歌劇場」を描いたことで、滝田さんの漫画の方向性が定まったと思っています。戦争や戦災を写実的に描くことは、報道写真など資料を見ればできますが、デフォルメして描くことはその何倍も難しい。この画風を会得したことで、なんでも描けるようになったのではないでしょうか」

私小説的な作品「泥鰌庵閑話」については、「コマの流れを見てほしい」と安倍氏。「コマの構成が、とても映像的です。最近の漫画は、コマ割りの大きなものが多いのですが、滝田さんは、一ページを四段に分け、さらに一段を三コマに割っている。このコマ割りが独特です。滝田さんの漫画は、ストーリーを追うのではなく、コマを追いながらゆっくり眺めるのがいいんですよね。時間を表現していると思います」

「例えば、雨が〈サタサタサタ〉と降り、人物が〈ジョジョー〉と薬缶から水をついで、〈チビ〉と飲むのですが、話の流れとしては、〈ジョジョー〉のシーンはなくてもいい。でもこれがあることによって、サタサタサタ、ジョジョー、チビ、というリズムが生まれる。

また、スクリーントーンを使わない滝田さんの画面は、細かい描き込みと、黒く塗りつぶしたベタ、黒で描かれた擬音の配置が絶妙です。ベタもリズムだと教わりました」

最後に、「滝田展で、特に注目してほしいところは」との問いに答え、「ボクが滝田さんから学んだ一番のことは、〈漫画は線である〉ということです。ですから原画一コマ一コマの線を見てもらいたいです。それから構図ですね。漫画に、説明的な絵を描いてはダメなんです。一つのコマからいろいろな物事を感じることができる、それがいい絵だと思います。雨一つとっても、〈サタサタ〉降る雨もあれば、〈ショボショボショボ〉と降る雨もある。「落語劇場」の「青菜」では、暑さと涼しさをしっかり感じることができる。こういう描写ができる作家は、そういないのではないでしょうか」

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滝田ゆう展は、三月二十五日まで開催。細かな情感が描き込まれた、戦前・戦中の東京下町の風景を、楽しむことができる。
2018年2月9日 新聞掲載(第3226号)
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