資本主義はどう終わるのか 書評|ヴォルフガング・シュトレーク(河出書房新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年2月10日

終焉のあとの「空白期間」 
無秩序と混乱の時代へ

資本主義はどう終わるのか
著 者:ヴォルフガング・シュトレーク
出版社:河出書房新社
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フランクフルト学派の流れを汲むドイツの社会学者ヴォルフガング・シュトレークの二冊目の邦訳となる本書は、『ニュー・レフト・レヴュー』などに発表された比較的最近の論文を集めたものである。欧州の置かれた状況や社会学のあり方を扱った第四章以下の諸論文も読み応えがあるが、一九七〇年代以降を危機の連続する時代として論じた書き下ろしの序文とそれに続く三つの章は現代資本主義を考える上でとくに重要な洞察を与えてくれる。

資本主義は「蓄積された集合的生産資本が私的所有権という法的特権を享受するごく一部の人々の手に委ねられ、彼らはその資本を…思いのまま使うことができる」一方で、「圧倒的多数の人々は、自分たちの生産手段の私的所有者が定めた身勝手な条件を守って働かなければならない」という特徴をもつ。この特徴ゆえに資本主義は、本来、民主主義とは折り合わない。第二次大戦後の三十年は両者が共存しえた例外的な時期であるが、それが曲りなりにも可能であったのは高成長ゆえであった。経済成長の分け前に与れる限りは労働者階級は資本主義という体制を受け容れ、資本家階級と手を結ぶことができた。しかし、成長に陰りが見え始めると、資本主義と民主主義の軋轢が表面化してくる。七〇年代には、低成長下で労働者の要求する賃上げと雇用の確保に応えるためにインフレ的な金融政策が採られた。しかし、高インフレは資本家たちの「カレツキ的反乱」を引き起こし、失業率を著しく悪化させた。八〇年代になると、脱インフレのために一転して金融引き締め政策が採られる。しかし、インフレから生じた税収減と高失業に伴う政府支出の増加によって公的債務が著しく拡大すると、政府の返済能力を不安視する金融市場からの緊縮財政を求める圧力が高まった。一九九〇年代に進められた公共投資の削減によって生じた総需要の縮小は、金融の規制緩和によって後押しされた民間債務の膨張(サブプライムローンはその典型である)によって埋め合わされた。こうして一九九〇年代末から二〇〇〇年代初めにかけて金融部門は世界的な活況を呈するが、この「民営化されたケインズ主義」とも言うべき仕組みは二〇〇八年に崩壊する。

資本主義の危機は、最初は、インフレ、次いで、公的債務、最後は、民間債務によって回避されてきたが、いずれも一時的な「時間かせぎ」にしかならなかった。このことは、前著『時間かせぎの資本主義』でも詳論されているが、本書は、ここからさらに踏み込んで資本主義の「終わり」についても論じている。戦後の資本主義と民主主義の「結婚」は解消され、民主主義が無力化する一方で、資本主義市場は野放図に拡大してきた。カール・ポランニーのいわゆる「擬制商品」(本書では「偽りの商品」と訳されている)、すなわち、労働・土地(自然)・貨幣の商品化も進展してきたが、これらは「注意深く制限を設けられ、制御がおこなわれた場合にのみ商品とみなされることが許され、それを完全に商品化してしまうとそれじたいが破壊されるか、あるいは利用不可能になってしまう」ものである。資本主義は対抗運動から安定性を引き出しているので、労働・土地・貨幣をあまりに商品化しすぎると、自らのよって立つ基盤を掘り崩してしまう。資本主義はその敗北によってではなく、むしろ全面的な勝利によって今や終わりを迎えつつあるというのがシュトレークの見立てである。

シュトレークによれば、資本主義の終焉はそれに代わる新たな社会秩序の登場によってもたらされるのではない。資本主義の次に現れるのは、「社会以下のしろもの」、つまり、秩序ではなく無秩序(と混乱)である。シュトレークは、すでに進行しつつあるこの時代をアントニオ・グラムシに倣って「空白期間」と呼んでいる。個人の競争的快楽主義に依拠する「空白期間」は資本主義の最後の「時間かせぎ」である。もっともそれがいつまで続くかは誰にも分からないが。(村澤真保呂・信友建志訳)
この記事の中でご紹介した本
資本主義はどう終わるのか/河出書房新社
資本主義はどう終わるのか
著 者:ヴォルフガング・シュトレーク
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年2月9日 新聞掲載(第3226号)
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