読みくらべ世界民話考/庶民の豊かな想像力と集合的認識を読み取る 書評|野中 涼(松柏社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2018年2月10日

民話の持つ不思議な魅力 
著者の幅広い文学への言及が興味深い

読みくらべ世界民話考/庶民の豊かな想像力と集合的認識を読み取る
著 者:野中 涼
出版社:松柏社
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世界各地に伝わる民話には、同じ話、同じモティーフ(テーマ)が多々ある。例えば本書にもある、シンデレラなどいじめられた継子のその後の幸福を語る話は、世界中で語られていると言っても過言ではないだろう。それはユング心理学の言うところの、人は地域、社会が異なっても考えることは根源的に同じという「集合的無意識」かもしれないし、遠い昔に話が伝播していったのかもしれない。そのほか近代に入っても、話の面白さゆえに、自分の地域の話として語り替え定着することもある。

たとえば、明治期以降の口演童話の語り手、巌谷小波によって、あるいは教材用に書きかえた小学校の教員や、宿題を本から丸写しした子どもによって。いずれにしても、遠く離れた国でも、共感を持って同じ話、モティーフが語られるという面白さ。そして、誰かの翻案であったとしても、すっと異文化に入っていくしなやかさ。

本書では、そんな民話の不思議な魅力を「素性のしれない者」をはじめとした異類婚姻譚から、異界との時間の流れの違いを扱う「時間の神秘性」まで、二三のテーマから味わえる。テーマの選び方も、話型やモティーフだけにとらわれない切り口で、非常に面白い。一つのテーマにつき三話ずつ、日本のみならず世界各地の三三の国、地域から紹介され、その後にテーマの解説がなされる。類話、ことわざや思想などの文化、著者の専攻が生かされた幅広い文学への言及が、大変興味深い。

民話は、しばしばその国独特の文化が反映され、理解しがたく、冒頭を忘れるくらい長いこともある。グリム兄弟も『グリム童話』を、聞いたメルヒェンから読むメルヒェンへ、(書物からもとっているが)七回も出版しながら改稿している。それほど民話を読み物として再話するということは、難しいのである。しかし、本書では民話の持ち味を生かした巧みな再話で、一話一話も短くまとめられ、どこからでも気軽に読める。民話は、人の口から口へ語り継がれてきているものであり、ここにおける民話は、まさに野中氏の語りと言ってもよいであろう。野中氏の語りに導かれて広く世界を旅することが出来る。

民話には生きる力、知恵も込められている。子どもの寝物語に最適である。小学二年の娘にも、少し言葉の説明をするのみで、本書を読み聞かせ出来た。リクエストが「楽しいお話」だったので、「詐欺師の良心」から「星占いのならず者」(ミャンマー)や、「富裕と清貧」からは「貧乏神」(リトアニア)などを読んだ。すると主人公のピンチに息をのんだりしながら聞いていたが、最後には満足して、自分から「あー面白かった。もう寝る。」と、さもご馳走を食べたような顔をして眠りについていた。以降、毎晩「あの本、読んで。」とねだられている。民話の本来の姿である、口から口へ。ぜひ本書を一人読むだけでなく、子どもなど周りの人とも分かち合ってほしい。バリエーションに富んだ話が合わせて七〇話、話は尽きない。
この記事の中でご紹介した本
読みくらべ世界民話考/庶民の豊かな想像力と集合的認識を読み取る/松柏社
読みくらべ世界民話考/庶民の豊かな想像力と集合的認識を読み取る
著 者:野中 涼
出版社:松柏社
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2018年2月9日 新聞掲載(第3226号)
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