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漢字点心
2016年9月23日

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音読みでは「ヒョウ」と読み、「つむじ風」を表す漢字。「炎」の部分を「犬」三つにした「飇」と書いても、読み方も意味も同じ。さらにその左右を入れ替えた「飆」も同様。漢和辞典では、この「飆」を見出し字として、「飇」「颷」はその「異体字」として説明していることが多い。

菊池寛の『藤十郎の恋』の主人公は、元禄時代の名優、坂田藤十郎。道ならぬ恋に苦しむ男女をいかに演ずれば真に迫れるか、よい工夫が思いつかずにいる。そんな折、ある美しい人妻を見て、心の中に「物狂わしい颷風(ひょうふう)」を感じた彼は、その思いを鎮めて、芸のため、彼女に偽りの恋をしかける……。

ここで菊池寛が、「飆」でも「飇」でもなく、「颷」の字を用いているのは、意識してのことだろうか? そうとも限るまいが、キャンキャンと鳴き騒ぐ「犬」よりも、めらめらと燃え上がる「炎」の方が、抜き差しならぬ恋にふさわしいことは、指摘するまでもあるまい。
2016年9月23日 新聞掲載(第3157号)
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