ウィーン・フィル コンサートマスターの楽屋から 書評|ウェルナー・ヒンク(アルテスパブリッシング)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2018年2月10日

音楽界を覗き見る 
楽団独特の魅力はどのように醸成されるのか

ウィーン・フィル コンサートマスターの楽屋から
著 者:ウェルナー・ヒンク
翻訳者:小宮 正安
出版社:アルテスパブリッシング
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初めてウィーン国立歌劇場でオペラを観たときの、探し求めていたものにぴったりの音楽を見つけた、と感じたときのことを今でもまざまざと思い出すことができる。軽やかで、様々な個性がのびのびと自由に、だが「調和」した、完璧な芸術品というよりは生き物のようにくるくると表情を変える彼ら独特の演奏はいつ聴いても魅力的だ。ウィーン・フィル、つまりウィーン国立歌劇場管弦楽団と同じメンバーで構成されるこの楽団独特の魅力がどのように醸成されたか、コンサートマスターの席から長年この楽団を見てきたウェルナー・ヒンクによって書かれた本書が詳らかにする。よくウィーン・フィルらしさが使用楽器に起因することが指摘されるが、そんな説明だけでは納得のいかない人も、様々な切り口からざっくばらんに語られた楽団の活動の様子から、何が彼らを形成したのかを理解することだろう。

ウィーン国立歌劇場管弦楽団の団員がウィーン・フィルの団員を兼ねていることは広く知られているが、これに加え、多くの団員が王宮礼拝堂での演奏も行い、また室内楽も精力的に行っている。つまり、彼らはクラシック音楽のほぼあらゆるジャンルの演奏を日常的に行っており、それが彼らの演奏の盤石な基盤となっていることは間違いない。

また、彼らの演奏を構築しているのは、こうしたジャンルの広範性のほか、歴史的な奥行きの深さという別の次元もあることに気づかされる。当然のことながら多くの著名な指揮者らが、この楽団の代々の音楽監督を務めてきた。指揮者は「解釈」の点で、コンサートマスターは「事故が起こりそうな点に注意する」等「実際の演奏」の点で、双方ともに「音楽をまとめる」役割を担っている、と著者は語っているが、指揮者のその「解釈」は楽団にとって一過性のものでなく、遺産となって残される。オーストリア生まれのカラヤンは、この土地の地域色の濃いブルックナー作品を世界的に注目される曲へと育てあげた。また、バーンスタインも当時は毀誉褒貶相半ばしたマーラー作品を積極的に取り上げた。この楽団の十八番であったハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの作品に加え、これらの曲も指揮者の解釈と共にこの楽団の伝統の層の一部となった。

この他、「ウィーンらしさ」が身体に身についた「ダンスのリズム」、つまり「スゥイング感」にある、といった内容であったり、著者がこのポストにつくまでの過程、そしてコンサートマスターの仕事内容など、興味深い点をあげればきりがない。ウィーン・フィルに興味がある人に限らず、音楽界を覗き見してみたい人には是非オススメの1冊だ。
この記事の中でご紹介した本
ウィーン・フィル コンサートマスターの楽屋から/アルテスパブリッシング
ウィーン・フィル コンサートマスターの楽屋から
著 者:ウェルナー・ヒンク
翻訳者:小宮 正安
出版社:アルテスパブリッシング
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年2月9日 新聞掲載(第3226号)
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