写真家・吉村和敏さん (上)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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あの人に会いたい
2016年9月23日

写真家・吉村和敏さん (上)

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『赤毛のアン』の舞台として知られるカナダ、プリンス・エドワード島。二十一歳の時にこの島に渡り、ここで暮らし、この島の美しい自然を写真で紹介したカメラマンが、吉村和敏さん。以来二十七年、写真家としてどんな道を歩んできたのか。そしてこれからどこに向かおうとしているのか、数少ない日本滞在中の一日、お話を伺いに、事務所にお邪魔した。

一九九一年九月、私が初めて手がけた創刊誌『私のカントリー』(主婦と生活社刊)は、『美しい部屋』別冊として書店に並ぶことになった。一冊一六〇〇円という高価な雑誌の初版部数は八万部。今では考えられない部数だが、本当に飛ぶように売れ、最終的には二十二万部まで増刷を重ねた。この雑誌を通して、私は編集者としての楽しさや醍醐味、胸躍る瞬間を何度となく味わうことになる。そして、様々な人との出会いも数多く経験した。

ある方に紹介されて、まだ二十三歳だった吉村和敏さんに初めてお会いしたのも、『私のカントリー』創刊号を世に出して間もなくの頃。『赤毛のアン』の舞台となるプリンス・エドワード島から帰国して一年。しばらくしたらまた島に戻って、写真を撮りたいという。「それならば『私のカントリー』の読者のために、プリンス・エドワード島で暮らす人たちのインテリアやライフスタイルを写真と文章でぜひ、取材してください」とお願いした。

写真家としてのデビュー作『プリンス・エドワード島』

そこから吉村さんと編集部とのお付合いが始まり、ニューファンドランドやノバ・スコシアなど、めったに取材できないカナダの様々な地域を紹介する雑誌として、独自の立ち位置を得たのも得難いことだった。

吉村さんは長野県の高校を卒業後、印刷会社に就職したが、サラリーマンとしての人生より、好きな写真を仕事にしたい、取りあえずカナダかインドに行ってみようと思い立つ。「インドに行っていたら全く違う人生だったでしょうね」と吉村さん。しかし当然ながら当初は「なかなか写真だけでは食べていけなくて」。そんなときにプリンス・エドワード島の取材が、二〇ページもの特集として記事になったのは、「経済的にもとてもあり難かった」。

『私のカントリー』はその後も順調に売れ、経費を潤沢に使えて会社にも貢献できる、皆が喜ばしい夢のような時代を経験する。

吉村さんとは一度だけカナダにご一緒したことがある。一九九四年、私は休暇を取ってプリンス・エドワード島の土を踏んだ。季節は春。といってもまだ雪解けの真っただ中で、寒さと曇天であまりいい印象を待たずに、カナダ北部のマドレーヌ島に移動した。当時はハープシールという“タテゴトアザラシ”がとても人気で、この撮影に入る吉村さんに同行した。その様子は『私のカントリー』№11号で七ページに渡って紹介したが、インテリアが主軸の雑誌に動物のページがドーンと入っていても、何の違和感もなく、ただただ自分たちの伝えたいことを誌面にしていた、おおらかな時代だった。

『私のカントリー』№11   思い出深い一冊
「『私のカントリー』は独特な視点で、どんなテーマも取り上げられる不思議な雑誌でした。この雑誌で文章を書くことも、どんなふうにページ展開するかも学ばせてもらい、その後仕事をしていくうえで、とても役に立ちました」と当時を振り返る吉村さん。

本来は休暇だったはずなのに、マドレーヌ島では、飛び込みで一般のお宅のインテリアや、ディスプレイの可愛いショップを取材したりして、その場で交渉しながら撮影をしてページを作っていくという、海外取材ならではの楽しさに浸った。タテゴトアザラシの取材は、氷点下一〇度程の、凍えるような寒さとアザラシのうるさい鳴き声に、「ちっとも可愛くなんかない!」と思ったのを今でもよく覚えている。
“赤毛のアンの島・プリンス・エドワード島”と言えば吉村さんの名前が筆頭に上がるような当時だったが、吉村さんは本当はこのことには辟易としていた。

「“赤毛のアン”を冠にしたら、どんな出版社も飛びついて本にしたいという時代でした。でも僕が伝えたかったのはプリンス・エドワード島の美しい自然やそこに暮らす人たちの日常。それをどうしても本にしたかった。いろいろな出版社に売り込みに行きましたが、全部ダメ。それならば、先にプリンス・エドワード島の写真で個展をやってみようじゃないかと。そうしたらたまたま講談社の編集の人が見に来てくれて。そこから本にするという話が持ち上がりました」

それまでにガイドブックとして赤毛のアンの島を紹介した書籍や、アンの料理レシピ本などを出していた吉村さんだが、二〇〇〇年に出版した『プリンス・エドワード島』が自分の写真家としてのデビュー作だという。
2016年9月23日 新聞掲載(第3157号)
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