ホキ美術館開館8周年記念対談載録 描く人と描かれる人 野田弘志×野依良治|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年2月16日

ホキ美術館開館8周年記念対談載録
描く人と描かれる人
野田弘志×野依良治

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じっと前を見据えて立つスーツ姿の男性。細密に描かれたその等身大の姿は圧倒的な存在感をもって見る者に迫ってくる。

写実絵画の巨匠野田弘志(81歳)は、近年「崇高なるもの」と題し、年に一点、天地2メートルのキャンバスに人物の立ち姿を描いている。その第六弾として、ノーベル化学賞受賞者の野依良治氏(79歳)を描いた。現在、千葉のホキ美術館に展示されているが、この展示を記念して、昨年十一月に両者の対談が行われた。その模様を一部載録する。(編集部)
第1回
戦前に生まれて。人生の質を考える

野田弘志《「崇高なるもの」OP.6》2016年ホキ美術館
野依 
 私が生まれたのは戦前ですが、今は時代が全く変わりました。私たちが子どもの頃は本当に何もない。芋のつるはもちろん、道端に生えている草の中で食べられるものを必死になって探して、今日明日生きていくことがすべてでした。相当復興した後に研究社会に入っても、欧米の人たちと競争などができるとはとても思っていませんでした。我々の親たちが大変苦労して経済復興してくれたことを本当にありがたく思わないといけないですね。
野田 
 私もそう思います。世の中大変だったですけれど、今は良かったと思っています。
野依 
 若い人たちは毎日の生活の質が良くなってほしいと思う。それは結構ですが、もっと大事なことは人生の質だと思うのです。思い返してみると貧しかったことも、かえって我々を強く鍛えてくれたということでもあります。人生全体でどうだったか。その質を考えなくてはいけないのではないでしょうか。
野田 
 私は現在「崇高なるもの」シリーズを描いています。人間の存在をとことん見つめていくとそこに本当に崇高なものが見えてくる。表面的に美しいものは本当の美ではなくて、そこを超越したもっと内面の深さを表したいと思って、連作を始めたのです。
野依 
 では、どうして野田先生が私を描くことになったのか。実は野田先生と私を引き合わせたのは建築家の安藤忠雄さんで、二年ほど前のことです。

私は野田先生と職業をはじめ何もかも違うのですが、お話ししていると突き詰めて人生の目的であるとか、社会で何が大事か、人間にとって何をすべきかには非常に共通するところがありました。本当に気脈を通じることができたように思えて大変幸せでした。お仕事には大変厳しい方ですけれど、とてもきめの細かい気配りをされる方です。一方で大変無邪気な子供のようなところもおありの方で、生れたままの純真さを保ってこられた。これは非常に大事なことだと思っています。

そして野田先生と私は共通して大変な苦労をしているのです。というのは、先生の洋画は当然ヨーロッパから始まっているし、私たちの科学(サイエンス)も元々西洋から来ているわけです。科学は現代では宗教と相反することもありますが、元々キリスト教精神で始まっています。つまり神様が一体何を考えていたのかを極めるために、科学が始まっているわけです。日本には二十世紀の初めに本格的に導入され、百年以上経ってなんとか日本人も科学ができるようになり、最近ではノーベル賞も受けることになった。我々の先達たちが西洋起源の営みにいかに苦労してきたかということです。

科学には国境がないのですが、それを営む我々科学者にはやはり国境があり祖国があります。究極の科学的結論は世界共通、普遍的ですが、その発想には日本人的な特色があるのではないかと思っています。五十年近く前にハーバード大学に滞在したことがあります。そこには大秀才がいっぱいいましたが、科学者として成功した人はごく限られています。私は日本人に生まれたために、異なる文化を背景にして、幸運にも新たな発想ができたのではないかと思い、日本人の科学者であることをありがたく、そして誇りにしています。
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2018年2月16日 新聞掲載(第3227号)
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