仙波龍英『わたしは可愛い三月兎』(1985) ナンデアル アイデアル傘さしもせで鶴見から来る影なき群が|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2018年2月20日

ナンデアル アイデアル傘さしもせで鶴見から来る影なき群が
仙波龍英『わたしは可愛い三月兎』(1985)

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「ナンデアル アイデアル」には「(註24)植木等による丸定商店の傘のテレビCM。」、「鶴見」には「(註25)11月9日、横浜市鶴見区で列車事故。161人が死亡。」という説明書きが付されている。これらをはじめ『わたしは可愛い三月兎』は、時事的な事件、風俗や流行語が大量に用いられ、そのひとつひとつに細かい註釈が付けてあるという、田中康夫『なんとなく、クリスタル』(1980年)の短歌版といえるような歌集である。さすがに『なんとなく、クリスタル』ほどの深い社会洞察はみられないけれど。表紙は当時「ロリコンマンガ」として知られていた吾妻ひでおのイラストであり、漫画家が歌集の装画を手がけるというのも当時としては相当の掟破りだったようだ。

植木等の傘のCMと国鉄鶴見事故に関する解説から、1963年がテーマになっている歌であることがわかる。高度経済成長による消費社会の芽吹きと、そのひずみといえる都市化の弊害とが凝縮された一首になっている。広告コピー(それもテレビの)を引用したうえに悲惨な事故と結びつけてダークなパロディにしてしまうというサブカルチャー的な方法は、現代では驚くほどのものではないかもしれないが、80年代の短歌においては斬新な表現として強い衝撃を与えた。本人は嫌がっていたようだが、後に俵万智や加藤治郎によって完成される「ライト・ヴァース短歌」の先駆けとして位置づけられることが、現在では多い。
2018年2月16日 新聞掲載(第3227号)
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