柳美里 ・佐藤弘夫 両氏に聞く 悲しみを優しく揺するものたち    『春の消息』(第三文明社)刊行記念インタビュー|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年3月2日

柳美里 ・佐藤弘夫 両氏に聞く
悲しみを優しく揺するものたち   
『春の消息』(第三文明社)刊行記念インタビュー

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日本人の死生観をテーマに、福島県南相馬市在住の芥川賞作家・柳美里氏と東北大学大学院の佐藤弘夫教授が東北の霊場を探訪した旅の記録、『春の消息』(第三文明社)が刊行された。本書の第一部では二人が訪ねた、各地の生者と死者の交歓風景を、「死者の記憶」「納骨に見る庶民の霊魂観」「日本人と山」「土地に残る記憶」「生者・死者・異界の住人」「死者のゆくえ」の六つのテーマごとに佐藤氏の解説と柳氏の書き下ろしエッセイ、仙台在住の写真家・宍戸清孝氏による写真で霊場への旅路へ誘い、第二部の対談「大災害に見舞われた東北で死者と共に生きる」では、土地に根付いた独自の文化を読み解き、死生観を語り合うとともに、それぞれが体験した「東日本大震災」とその後の日々についても考察を深める。あの大震災から七回目の春を迎えるいま、著者の柳美里氏と佐藤弘夫氏にお話を伺った。 (編集部)
第1回
出逢いの不思議から


――柳美里さんと佐藤弘夫さんの最初の出逢いは、二〇一六年六月二二日、「いわきアリオス」で行われた、「いわき短期大学」五〇周年、「東日本国際大学」二〇周年を記念する記念式典でのことだった。基調講演で、柳さんは「福島に寄り添う私」、佐藤さんは「神・人・死者 日本列島における多文化共生の系譜」という演題を講演。柳さんは、そのときの出逢いをこのように記す。

「他者と遇う偶然の中にこそ意味があり、出合い頭の言葉のやりとりこそ価値がある。」(「はじめに」より) 

本書が生まれるきっかけとなったこの最初の出逢いのことからお話を伺った。
柳 美里氏
柳 
 基調講演で、佐藤さんは「神・人・死者」という演題でお話しになりましたが、佐藤さんの言葉はそのとき私が携えていた問いの真っ芯に響くものでした。メモを取りながら講演を聴くことはあまりないのですが、記念式典の式辞の裏表にびっしり書き留めました。私は震災以降、生と死の境界、死者の行方、傷つき悲しんでいる他者とどのように関わればいいのか、ということをずっと考えてきました。生きることと死ぬことは、書くことを仕事に選んだ十八歳のときから一貫して自分の作品のテーマでもあったのです。講演の後、南相馬に帰宅してすぐに佐藤さんに自著を送り、佐藤さんの『死者の花嫁 葬送と追想の列島史』(幻戯書房)を読んで、二人で東北の霊場巡りをしてみたいと思ったんです。
佐藤 
 柳さんは基調講演でレヴィナスのお話をされていましたね。私は人文学といわれる分野を専門にしていますが、その学問の限界のようなものをとても強く感じていました。なんのために自分が学問をしているのか。私たちの研究にはそのための作法があって、それはそれで知的に洗練され蓄積されてきた、とても大事なものであることに違いはないけれど、その作法によってなにを生み出していくのかということがなかなか見えてこない。だからいま人文学は必要なのか、大学に文学部が必要なのか、というような議論が出てくるわけです。私みたいな凡庸な学者は、レヴィナスのような人の心に届く言葉を容易に持つことができない。目の前で言葉が空回りしてしまっているように思えて、その壁をどうやって突き抜けていくかということをずっと考えていたのです。柳さんの作品に最初に出会ったのは、二〇〇〇年頃、『命』(小学館/二〇〇四年:新潮文庫)という作品でしたが、本を繙いて柳さんのメッセージに衝撃を受けました。届く言葉というのはちゃんとあるのだと。実際にお会いするまで、柳さんはもっとアグレッシヴな方だと思っていたのですが、講演を聴いたらとても柔らかいお話ぶりで、その言葉がまた染み込んでくる。それで、やっぱりすごい方だなと思って、機会があればまたぜひお目にかかってお話をしてみたいという気持ちになりました。
柳 
 六月二二日は私の誕生日だということもあるんですが、佐藤さんとは、出逢うべくして出逢ったんだと思います。
佐藤 
 震災のあとに特に思うことですが、運命というものが確かにあるんだということをすごく感じるんです。いま生かされているのは、何かしなければならないことがあるからなんだと。いまこの瞬間瞬間に、一日一日に、なすべきことを一つずつしっかりと積み重ねていかなければいけない。柳さんにも、逢うたびに口にすると言われるんですが、「人はやるべきことを成し遂げるまでは死なない」ということを、私はいつも自分に語り聴かせているんです。
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この記事の中でご紹介した本
春の消息/第三文明社
春の消息
著 者:柳 美里、佐藤 弘夫
写真家:宍戸 清孝
出版社:第三文明社
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年3月2日 新聞掲載(第3229号)
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