ENDANGERED 絶滅の危機にさらされた生き物たち 書評|ティム・フラック(青幻舎)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2018年3月10日

あらゆる角度から野生 動物の意志を引き出す

ENDANGERED 絶滅の危機にさらされた生き物たち
著 者:ティム・フラック
出版社:青幻舎
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書名であるENDANGEREDは、絶滅危惧種と訳され、国際自然保護連合によって毎年公表される“現時点で絶滅が心配されている生物種”のことである。2017年の発表では、25821種にも上っている。

本書を手にした評者の目に飛び込んできたのは、膝を抱え込んだベローシファカが何かを訴えている目だった。その表紙を開いて数ページ進むとゾウの影だけの写真が現れた。よく見ると赤茶けたツァボの大地と同じ色をしたアフリカゾウ12頭の群れが夕日を浴びて歩いている姿を上空から撮ったもので、その影がゾウの儚い未来を見事に訴えていた。解説文は後にして、ページをどんどん捲った。水中で眼が飛び出したカバの顔、氷雪原に印されたホッキョクグマの足跡、センザンコウの鱗、などなど。どれ一つとして心に残らない写真はない。

本書には、すでに絶滅してしまった2種が紹介されている。北米のリョコウバトは、18世紀には50億羽も生息していたが、ヨーロッパから移住してきた人々によって食肉や羽毛として乱獲され、20世紀初頭には絶滅してしまった。また、ジャマイカのツバメガは、昼行性でアゲハチョウのような美しさであったが、おそらく幼虫の食草が壊滅的打撃を受けて、急速に個体数を減少させてしまったものと考えられている。著者は、これらの剥製と標本の写真を掲載しているが、他にクロサイのジオラマも載せている。なぜ、生きたクロサイを撮らなかったのか。著者は生きている動物の持つ、心と力と意志を伝えたかったからだと思う。死んでしまったものからは、なかなか心の底まで染み込まない。

著者は動物と環境を切り離せないものと認識しており、すべて生息地の環境と共に撮影することを基本としている。また、美しい姿態だけではなく動物の一部を強拡大したものからサンゴの産卵まで、あらゆる角度から野生動物の意志を引き出そうとしている。かれらは、このまま放置すれば、やがて地球上から姿を消してしまうものばかりだ。ゴリラの胸板やシロサイの顔、フィリピンワシの後ろ髪、飛び出したカエルの眼が「本当に、このままで良いのですか」と語りかけている。

絶滅の要因は、農地拡大に伴う生息地の略奪や汚染による生息環境の破壊ばかりではなく、ゴリラやチンパンジーなど多くの霊長類が蛋白源として食べられているし、センザンコウやサイ、トラなどは伝承に基づく薬物として利用されているからだ。1880年代のアフリカ分割以前には2千万頭もいたとされるアフリカゾウが、象牙のために殺害され続け、今では35万頭にまで減少してしまった。このままでは、20年後に絶滅してしまうと警鐘をならす研究者もいる。需要がある限り密猟は続く。象牙の需要をなくすることがもっとも有効な保護政策となるのだが、国際的な足並みは揃わない。また、見た目もイメージも重要で、ジャイアントパンダは愛くるしさによって保護され、死肉を喰らうハゲワシの保護は理解されそうもない。このように人間が原因で起こる地球6度目の大量絶滅が、今まさに始まろうとしているのだ。地球では、過去に5度の大量絶滅が起きているが、すべて自然現象が原因となっている。今から6500万年前に起きた5度目の大量絶滅では、恐竜を初めとする全生物の70%が絶滅しているが、原因は巨大隕石の衝突だと考えられている。

ノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェン博士が2000年に提唱したとおり、地球は今“人新世”という新しい地質時代へ入ろうとしている。これ以上、絶滅生物を出してはいけないという思いと意志を我々一人ひとりが持たない限り、生命の星・地球は滅び去ってしまうだろう。本書を通して動物の切実な訴えに目と耳を貸して頂きたい。そして、小さくてもいいから、彼らを絶滅の淵から救う行動を起こして欲しい。多くの生きものと共生できる未来を構築できるのも、我々人間なのだと著者は訴えている。
この記事の中でご紹介した本
ENDANGERED 絶滅の危機にさらされた生き物たち/青幻舎
ENDANGERED 絶滅の危機にさらされた生き物たち
著 者:ティム・フラック
出版社:青幻舎
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年3月9日 新聞掲載(第3230号)
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