原発は終わった 書評|筒井 哲郎(緑風出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2018年3月10日

原発はなぜ、どのように終わったか 
原子力の商業利用は失敗続き

原発は終わった
著 者:筒井 哲郎
出版社:緑風出版
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原発は終わった(筒井 哲郎)緑風出版
原発は終わった
筒井 哲郎
緑風出版
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「五〇年近く石油プラントや化学プラントを設計・建設するエンジニアリング業界で働いてきた」著者が、福島原発事故以降、原発について考察してきた成果の書である。プラント技術者としての豊かな経験と、他方、原発には直接関わってこなかったことによる新鮮な視点の出会いが、本書を生んだ。

著者から見れば原発は、終わるべくして終わったということだろう。東芝の凋落に象徴される世界の原子力産業の衰退、再生可能エネルギーへの「発電産業の世代交代」が、原発は終わったことを如実に示している。

実はそれまでも、「平和利用」を僭称する原子力の商業利用は失敗続きだった。マンハッタン計画と対比させて「平時の原子力開発は成り立たない」と説く著者は、日本の実例として、原子力船「むつ」、六ヶ所再処理工場、高速増殖炉「もんじゅ」の頓挫をレビューしている。

その中で、著者の経験を述べているところが面白い。「政府が金を出す国の開発プロジェクトに何度か参加したことがあるが、この種のプロジェクトは必ずと言ってよいほど、『所期の成果があった。現在の市況に照らすと、資源ひっ迫の状態ではないので、将来資源価格が単位量当たり〇〇ドルを超えたら実用化すればよい』という類の報告書を書いて終わる」

「むつ」は、まさにそのように総括された。「もんじゅ」は、そう強弁できないうちに廃止となり、「むつ」の二の舞いすら舞えずに終わった。六ヶ所再処理工場が、後を追おうとしている。

原発は放射能をもっていることから、「設計や施工の専門家が、不適合箇所を目で見、聴音し、撫でたり摩ったり、ノギスで測ったりしながら、現場で考え、装置に肉体を接触させながら長時間の診断を行」うという、一般のプラントでは当たり前のことができない。さらに、ひとたび事故が起こると、進行は急速で、対応は人間の能力の限界を超える。

そして福島原発事故が起こってしまった。事故前の「定常業務」と事故後の「非定常業務」とでは「質量ともにまったく別次元の大規模プロジェクトである」と著者は指摘する。にもかかわらず東京電力の経営者は、そのことを認識しているようには見えない。そこで「東電を破綻処理し、事故処理専門の組織を作り、政府、産業界、学界からも総力を挙げて結集する体制を作って、今後の長い後始末作業に取り組まなければならない」

プラント技術者の経験に裏打ちされた提言である。著者らはまた、福島第一原発の事故原子炉について「一〇〇年以上隔離保管後の『後始末』」を提言している。「著者ら」としたのは、著者が原子力規制部会長をつとめる原子力市民委員会の共著だからで、本書の論考のいくつかは、同様に共著として発表されたものを採録している。

原発はなぜ、どのようにして終わったかが、説得力をもって提示されたが、「政府が特定産業に肩入れすることの悪弊」ゆえに未だ「ゾンビ産業」が延命を画策している。それを打ち砕く認識の共有に、本書が果たし得る貢献は大きい。
この記事の中でご紹介した本
原発は終わった/緑風出版
原発は終わった
著 者:筒井 哲郎
出版社:緑風出版
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年3月9日 新聞掲載(第3230号)
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