山本哲士氏公開講演 「吉本隆明『初期歌謡論』の思想的な意味」 『吉本隆明全集14[1974-1977]』(晶文社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年3月18日

山本哲士氏公開講演
「吉本隆明『初期歌謡論』の思想的な意味」
『吉本隆明全集14[1974-1977]』(晶文社)刊行を機に

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『古事記』『日本書紀』から平安期の歌論書までを読み解き、和歌形式の詩の発生の起源から形式の成立まで統一的に論じる古典批評の書『初期歌謡論』を収録した、『吉本隆明全集14』が晶文社から刊行された。本書の刊行を機に、山本哲士氏(政治社会学者、文化科学高等研究院ジェネラル・ディレクター)による公開講演「吉本隆明『初期歌謡論』の思想的な意味:述語的表出の思想と日本文化資本の基盤」(二月二〇日、文化資本学会/晶文社主催)が開催された。山本氏は「『初期歌謡論』(一九七七年)は、歌謡の発生・祖形から歌表出に構成された「日本」の「文化資本」の根源を、言語本質から思想的に述語表出した書」と概説。『初期歌謡論』の解読レクチャーが行われた、その要旨である。(編集部)
第1回
■吉本隆明の問題意識「原日本語」から「日本語」へ

山本 哲士氏
吉本さんの問題意識の中で非常に大きな概念として「原日本語」があります。現在、記述として残っている『古事記』『日本書紀』(以降、「記・紀」)以後のものは、日本語のほんの一部で、吉本さんはそれ以前に「原日本語」があるはずだと考えていた(『母型論』)。「記・紀」以前、弥生から縄文へと遡ってですが、大和朝廷によってそれまでの文書は焼かれ残されていない。しかし、日本語が形成されていくときに、とりわけ歌、歌謡や和歌の世界の変遷の中で形成されてきたところに、日本語の発生起源を読み解く鍵があるのではないか、が吉本さんの仮説だった。では、残っている可能性があるのは何かというと、短歌の五七五七七形式から俳諧の五七五の形式へ到達していく「五七」形式と「枕詞」という形で、そこに何かが残っている、在るものの中の不在です、そこから「想像を働かせる」しかない、となってきます。歌謡に潜む「原日本語」、そこから現生日本語を考える、大きくはこれがベースにある。一九七七年に『初期歌謡論』が書かれて、それから五〇年近く経っているのにまったく古くないことに驚かされます。古くないどころか、やっとその意味が理解されてくる段階だと思います。吉本さんの言い方ですと、『古今集』の編まれた九〇五年から現在まで約一〇〇〇年以上経っていますが、そこから逆に、『古事記』の世界へ至るものはこれ以上の幅で作られている。一〇〇〇年くらいのものが「記・紀」や『万葉集』の世界に凝縮されているので、古今や万葉の前の一〇〇〇年以上先に遡らないと駄目だという壮大な発想です。

「記・紀」歌謡から『新古今集』に至るまでの日本の歌謡の変遷史を扱った『初期歌謡論』ですが、
disposition(ディスポジション)という理論概念で理解できると私は考えます。「ディスポジション=配置換え」することで、ものごとの配置や構成が変わる。ポジションを組み替えて配置換えするということが、初期歌謡の変遷の過程で起きている。つまり五七五七(七)の基本形式はそのままで、そこにおける言葉の配置がディスポジションするということです。

そこにもう一つ、déplacement(仏語:デプラスマン)というフーコー的用語、デプラスマン=場所がひっくり返る、地盤が変わるということですが、そのデプラスマンが実はここで起きている。この二つはフランス現代思想の「構造論的転回」の基本概念ですが(あまたの邦訳では辞書訳されているだけで概念空間として全く把握されていない)、同時的に吉本さんがなした論理に対応します。歌成立の自律性と必然性を汲み上げている、もうちょっと俯瞰しておくと、倭奴国王(わのなのこくおう)を〇年とすると、そこから七〇〇年経って『古事記』、九〇〇年経って『古今集』が出来てくる。「原日本語」の口誦時代から掛け言葉として日本語が成立してくる一〇〇〇年くらいまでをいわゆる古代と言っていいのだと、政治区分ではない表現史からのおさえ方を吉本さんはします。そこでなされた言語表出様態の「ディスポジション」と「デプラスマン」の論述が『初期歌謡論』です。
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この記事の中でご紹介した本
吉本隆明全集〈14〉 1974-1977 /晶文社
吉本隆明全集〈14〉 1974-1977
著 者:吉本 隆明
出版社:晶文社
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年3月16日 新聞掲載(第3231号)
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