瀧音幸司「ユンボと水平線」(2006) 歯科助手に美人が多いということの理由を考え糞をしている|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2018年4月3日

歯科助手に美人が多いということの理由を考え糞をしている
瀧音幸司「ユンボと水平線」(2006)

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斉藤斎藤などを輩出した「歌葉新人賞」の最終候補に残った作品のうちの一首(なおこのときの受賞者は笹井宏之)。肉体労働で日々をしのいだり失業してハローワークに行ったりする主人公設定で描かれるダウナーな口語短歌は、ギャグ漫画の世界のようで上質のペーソスがあった。発表当時は「ダメ男の自虐ユーモア」くらいの受け取られ方だったが、非正規雇用やワーキングプアの問題などが現代短歌で次々と取り扱われるようになるのはこの数年後のことで、それを考えると「ユンボと水平線」はかなり先進的な作品だった。
「歯科助手に美人が多い」というアイデア自体は、それほど目新しさのない「あるあるネタ」にすぎない。しかしこの歌の場合、トイレで糞をしながら歯科助手に美人が多い理由をとりとめもなく考えているというシチュエーションそのものがボケになっている。それはトイレが究極の「個」の空間であり、近代性がモロに現れる場所であるという条件が前提となっている。近代的自我を獲得したうえで考えていることが、大して面白くもないあるあるネタであるという状況が、むしろ近代的自我に対する批評性を獲得している。この歌を初めて読んだときなぜか和式便所にまたがっているイメージが浮かんできた。別に洋式便所でもいいはずなのにそう思ってしまったのは、和式の方がより「理由を考え」る姿が似合うという妙な思い込みが自分の中にあるのかもしれない。(やまだ・わたる=歌人)
2018年3月30日 新聞掲載(第3233号)
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